5.婚約者のフリ再び

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 大学もアルバイトもお休みの日、僕がリビングのソファにいるときに、スマホが鳴った。  確認すると豪さんからのメールだった。僕のスマホに豪さんから連絡が来るのは初めてで、その名前が表示されただけでドキッとした。  業務連絡だということはわかってる。それでも豪さんと連絡を取り合う間柄なんだとなぜか嬉しく思った。  メールの内容はこうだ。  次の土曜日に、お金持ちの人たちが集まる船上パーティーがあるらしい。そこへパートナーとして一緒について来いというものだった。  僕は契約どおりに女装して豪さんの婚約者のフリをしなければならない。女装については美蘭に協力を頼もうか。  豪さんに会えたら、僕のアルバイト先の店のルールを変えてくれたことのお礼を言おう。  それと、出来たらあのときのキスの意味を訊きたい。豪さんの口からはっきりと言われないと僕にはよくわからないよ・・・   「—凛! おい凛!」 「えっ? ああ、ごめん・・・」  圭くんに肩を揺すられて、やっと気がついた。僕はリビングのソファに座ったままボーっとしていたらしい。 「どうしたんだ? 最近おかしくないか? なんかあったのか?」  圭くんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。 「別に・・・」 「おかしいな…もしかして好きな人ができたとか? 大学? バイト先? どっちだ?!」   圭くんはひとりでやけに嬉しそうだ。ニマニマと意味ありげな笑顔で僕に迫る。  圭くんに好きな人と言われて咄嗟に浮かんだのは豪さんだった。    豪さんはめちゃくちゃかっこいい。あそこまで完璧だと、もはや芸術の域だ。  僕は豪さんを初めて見たとき、あまりの綺麗さに見惚れてしまった。ドキドキと胸が高鳴ったし、目が離せなかった。  それから豪さんとの二度のキス。すごくドキドキした。キスって相手が誰でもあんなふうにドキドキするものなのかな・・・ 「ほら、またボーッとしてる。誰のこと考えてるんだ?」 「えっ・・・」 「白状しろ」  だめだ、僕が圭くんに隠し事なんか出来るわけない。  圭くんにここ最近の顛末を話すと「凜の女装にそこまで需要があったとはな」と楽しそうにコメントしてくる。 「それで? そのすげえイケメンに恋したと」 「ちっ、ちがうよ!」 「凛の初恋か〜? 美蘭が聞いたら大変だぞ」 「えっ何で?」 「そりゃ天然の兄を19年間守ってきた妹としてはろくでもない男に引っかかったじゃないかって心配するだろ?」 「…っ…僕天然なの…?」  圭くんは笑ってる。酷いよ圭くん・・・
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