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やがて発表会が始まり、僕は他の出場者に混ざり、必死でランウェイを歩いた。
目立つことは苦手だけれど、僕がだらしなかったらダメだ。出来る限り頑張った。
なんとか出番が終わり、あとは発表を待つだけになった。
緊張と不安でなんだか急にドッと疲れが出たから少し気分転換をしたいと思って会場の外へ出た。
美蘭の学校の発表会が行われているのは、都内の有名なホテルのバンケットホールだ。ここのホテルには朱雀、鳳凰、みたいに大小たくさんのバンケットがあるから迷わないように戻ってこなきゃいけない。
どこで時間を潰そうかなとキョロキョロ見回し、挙動不審になってたら突然ぐいっと腕を誰かに引っ張られた。
「あっ、ごめんなさいっ!」
突っ立っていた僕が邪魔だったのかなと思ったが、どうやらそうではないらしく、なぜかそのまま僕の身体が引っ張られていく。
「黙ってついて来い」
僕の肩を抱くのは背の高い男の人。緋色の髪で、ツーブロックのフェードカット、長い部分を結べばマンバンスタイルにも出来そうだ。
美蘭の影響で無駄にヘアスタイルに詳しいんだよね。似合うなー、なんてぼーっと考えながら連れられていく。
これ、いったいどういう状況・・・
僕は歩きながら彼を見あげてハッとした。
この人知ってる。
アルバイト先で見かけたことがある。
僕は二週間前から会員制ラウンジでアルバイトを始めた。そこは会員制だけあって、利用するお客さんは一般人とは住む世界の違うお金持ちの人ばかりのお店だ。
そこで初めて見たんだ。
その人は椅子に座ったまま目を閉じ、眠っていたんだけど、その姿を見て僕の胸はドキドキ高鳴った。
すっと伸びた鼻梁に、シャープで無駄のない輪郭。触れたくなるくらいに艷やかな肌をしている。
そして綺麗な弧を描いているまつ毛。さらりと揺れる緋色の髪。
美しいと思ったし、目が離せなかった。
どうしてなのかはわからない。
直感みたいなもので、いいなぁって思った。
綺麗な景色を見て、理由もわからず心奪われるのと同じ感じ・・・?
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