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豪さんは僕をホテルの廊下の端まで引っ張っていく。僕の手を握る豪さんの手は少し冷たくて、意外だなと思った。さっきはあんなに堂々としていたのに豪さんは実は緊張していたのかな。
廊下の行き止まりは大きなガラス窓。その窓の先にはホテルに近接している海浜公園と波打つ海の景色が広がっていた。
バンケットルームを出てからも僕のドキドキは全然収まらない。
なんだろう、このほわほわした不思議な気持ち。
僕は誰かをそういう意味で好きになったこともないし、お付き合いもしたこともない。
もちろんキスみたいなものもしたことがない。
だからよくわからないけど、キスってこんなに簡単にされちゃうものなんだって思った。
豪さんは周りに人がいないことを確認してから僕を掴む手を離し、僕の顔を優しい目で見る。
豪さんは本当に綺麗な顔をしている。目が合っただけでドキっとして、こんな間近で見ると直視できないくらいだ。
「凛。ありがとう、俺に協力してくれて。お陰で俺はあのクソ女との婚約を回避できた。なんであんな女と俺が結婚しなきゃならないんだ? 絶対に嫌だ」
やっぱりそうだったんだ。豪さんは結婚したくないから、僕を連れていって婚約者がいるだなんて自分の家族や麗花さんの家族に嘘をついたんだ。
でも、でも・・・じゃあ豪さんはそのためだけに、僕にあんなことを・・・
「今回のことのお礼がしたい」
彼は少しかがんで僕の顔をじっと見つめてくる。その少し微笑んだ顔は魅惑的で、僕はもう耐えられない。
「一度だけなら抱いてやる」
そう言って更に顔を寄せてくる。僕はガラス窓に追い詰められて額と額がぶつかりそうだ・・・!
「どうせ俺に惚れたんだろう? さっきのキスがそんなによかったか? 凛のためにここのホテルのスイートルームをとるよ。それでいいよな?」
えっ?! 何を言って・・・!
そうか。豪さんは、僕を女だと思ってるからベッドに誘ってるんだ。
こんな・・・会ったばかりの女性をいきなり誘うなんて。
遊び人で、何人もの女をたぶらかしているっていうのは本当のことだったんだ。
だから、だから、軽い気持ちで人の唇を奪ったり出来るんだ・・・
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