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「この子なんです」
奥様はポスターを差し出した。
『犬を探しています。名前は小太郎』
写っているのは白い可愛い犬だ。少しぽっちゃりしているかもしれない。
「犬種はチワワとの雑種みたいです。食い意地が張っている子なんで、何かの匂いにつられて、逃げ出したんじゃないかと」
飼い主は不安そうだ。いなくなってから三日目。ペット探偵に頼むには少し早いが、確かにお気に入りの餌を置いても戻って来ないというのは心配だろう。誰かの家に保護されたのかもしれない。
「他の写真も見せて頂けませんか?」
スマホの写真を見せてもらうと、ポスターの写真が一番可愛い。普段の写真より一番可愛い写真を選んでしまう飼い主の悲しい性だ。
「怒った時や初めての人と会った時の写真ありませんか?」
お腹を減らし、知らない人の中でさまよっている犬はこんな幸せな顔をしていない。
「怒った時、あ、ご飯を取られると勘違いした時の顔がこれです」
歯を剥き出した写真をスマホにコピーする。
「本当に食い意地がはっていて。実は数年前に泥棒が入った時、泥棒が大人しくさせるためにくれた餌が美味しくて、小太郎が大声で鳴くもんですから、バレて捕まえることができたんですよ。すごい防犯効果だって、みんなに笑われました」
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