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映画が終わると、彼は早々に席を立って、私に言った。
「ここで解散でいい?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「迎えに来てくれてる子がいるから」
映画館を出ると、なんとなく見覚えのある女の子が立っていた。
スマホは便利だ。いつでも誰かを呼び出せる。
少なくとも私のほうは、彼に対して思いやりの感情を持っていた。
別れる時に、泣いたり怒ったり、去っていく彼を追いかけたりしないと決めていたのは、彼に必要以上に嫌われたくなかったからだ。
だが、その子と連れ立って歩き出そうとする彼の、いやらしくて冷たいニヤニヤ笑いに、そんな考えは吹っ飛んだ。
私は、彼とその子がいるところに、大股で歩み寄った。
彼は迷惑そうな顔をしている。私が自分のことを追いかけてきたと思っているのだろう。
しかし、それは明らかな間違いだ。
私は持っていたバッグを振り上げて、彼の脳天めがけて振り下ろした。
バシッ
「いてっ!」
痛いとは言っているが、そんなに痛くもなさそうである。
バッグが軽いせいだろう。それに私のほうでも手加減を加えていた。
私は人を殴った経験があまりない。
よって、どのくらい力を入れれば、どのくらいのダメージを与えることになるのか、よく分からない。
だから手加減を加えたのだが、この感じなら、もうちょっと力を入れても良さそうだ。
そこで二発目は、さっきよりも勢いを付けてバッグを振り下ろした。
ボスッ
この時の、彼の情けない顔は、私の同情を全く引かなかった。
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