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八歳の奏多君は、お母さんが出て行った時、お母さんの乗った自動車を必死で追いかけたらしい。でも、八歳の時の奏多君は走りは遅かったらしいし、もちろん車に勝てるわけなくて、本当に倒れるまで走ったけど、全然追いつけなかったらしい。奏多君はそれが悲しくて、ずっと速くなりたいって今まで走り続けてきたけど、ケガをしたことで、今更速くなったところでもうお母さんは戻ってこないことや、自分ももう会えなくてもいいことに気づいてしまったそうだ。なんだかすごく悲しい理由だったけど、奏多君の走っている姿がなぜあんなに苦しそうだったのか、答えが出た気がした。
「だから、陸上部辞めるよ」
奏多君は、少し遠くを見るように言った。奏多君の話を聞いて、なぜ奏多君の走っている姿があんなに苦しそうだったのかわかった。追いかけても追いかけても二度と会えないお母さんの姿を追いかけていたから、あんなに悲しかったんだ。だから、奏多君がもう走りたくないって気持ちもわかった。頭でも、心でも、それは十分に伝わってきた。なのに、私から出た言葉は全然違った。
「いいじゃん、辞めなくても」
「え? 今の話聞いてた?」
奏多君は目をまん丸にして私を見た。
「いや、まあ走らない理由はいろいろあるかもしれないけど、奏多君速いんだし、走ってもいいじゃん」
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