走る君を見て

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で も、奏多君に興味はある。たぶん、私の周りで一番ミステリアスなのが奏多君だから、一番注目してしまうのだろう。でも、もし奏多君の謎が解けたら、私は全く奏多君興味をなくしてしまうのだろうか。それはそれで寂しいような気がした。  奏多君が全国大会まで後一週間というところで、足首の腱を痛めた。それは、突然だった。いつものように私も奏多君の走りを盗み見していると、奏多君がスタートした瞬間、その場に倒れ込んだ。いつか壊れそうだと思っていたけど、それが現実になった。スローモーションのように奏多君が倒れ込むのを見た時、私は一歩も動けなかった。たぶん、誰よりも早く気づいたと思う。だけど、私は声を上げることも、駆け寄ることも出来ず、ただ呆然と奏多が倒れる姿を見ていた。その時、なぜか自分のせいだと感じた。いつも壊れそうだ思って見ていたから、奏多君は本当に壊れてしまったんだと、自分を責めた。だから、コーチや他の部員が奏多君に駆け寄る中、私は少し離れた場所に立ち尽くして泣いていた。由佳達は、大好きな奏多君がケガをしたからショックを受けて私は泣いたんだと思ったようだけど、そんなのではなかった。私は奏多君が自分のせいでケガをしたんだと自分を責めて泣いていた。  奏多君のケガは思ったより重傷で治るのに二、三ヶ月はかかるみたいだった。そして、その日以降、奏多君は陸上部に来なくなった。
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