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「奏多君は、何でこんなところで黄昏てるの?」
「いや、家に帰ると、コーチが待ってるんだよ。だから、ここで時間潰してるんだ」と、奏多君は苦笑いをした。
「本当に部活辞めるの?」
私が真剣に聞くと、奏多君は真面目な顔をして、しばらく考えていた。
「うん。辞めようかな」
「どうして? ケガひどいの?」
奏多君は、首を振った。
「いや、ケガは大したことないよ。まあ、ちょっとは大したことあるのかな。でも、一、二ヶ月で治るよ。だけど、何だか走る気が無くなったんだ」
「治っても、前みたいなタイム出るかわからないから、嫌になった?」
私は聞いてから後悔した。ケガをして落ち込んでいる奏多君に聞くべきことじゃなかった。でも、私は思ったことをすぐに口に出してしまう。
「ううん、タイムなんてどうでもいいんだ。ただ、ケガをして冷静になってみると、走る理由なんて無かったことに気づいたんだ」
「理由?」
「ああ、理由ね」
それから、奏多君は今まで走っていた理由を教えてくれた。奏多君が速く走りたいと思うようになったきっかけは、お母さんが奏多君が八歳の頃に出て行ったからだった。
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