第二話 幸せな偶然

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第二話 幸せな偶然

 四月の入学式。  終わるのかと思った校長の長話のあと、僕は高校の自分の教室に向かった。  すると、後ろから肩をたたかれた。  美少女だったらいいのに、という僕の期待は見事に打ち砕かれた。  振り向いた先にいたのは、真新しい制服を着こなした二神だった。 「よっ。ひさしぶり」 「ストーカーか?」 「……そんなわけねーだろ。偶然だって。D組?」 「悲しいことにな」 「マジか! 同じだな、よろしく」  二神は、今度は手を差し出さなかった。 「よっ、優、知り合い?」  二神の後ろから、髪を立てた男子が顔をのぞかせた。 「見んなよ。減る」 「なんだよ。見るからに陰キャじゃん」  二神の周りに、続々と人が増えていく。  どんだけ顔広いんだ、コイツ……。 「……じゃあな」 「あ! 待てよ、裕司!」  二神は僕の名前をなぜか覚えていた。  二神の名前を、僕はなぜか覚えている。  放課後。僕は足早に学校を去ろうとしていた。  帰宅部になる自信があった。部活に強制的に入らなくていいから、この高校を選んだのだ。 「裕司、ちょっと」  後ろからいきなりささやかれて、絡めとられるように腕を引っ張られた。二神だった。 「なんだよ。引っ張るなって……」  そのまま、人気のないところまで連れて行かれた。  やっと解放される。 「なんだよ、その目」  二神は、鋭い目つきで、僕をにらんでいた。 「お前、冷たいよ」 「はあ?」 「俺、あの公園にいれば裕司にまた会えるかと思って、時々ベンチに座って待ってたんだぜ?」 「はあ」 「……もっとなにかあるだろ」 「……気色悪いとしか」 「俺はお前と仲良くしたいんだよ!」 「よくそんな恥ずかしいセリフ言えるな」  二神は不敵に笑って言った。 「今すぐ連絡先を俺に教えるんだな」 「お前みたいな危険人物に教えると思うか?」 「教えないと、お前がクラス1の美少女(俺調べ)の、三田ゆず子ちゃんを狙ってるって男子にウワサを流す」  なんつー手を使いやがる、コイツ! 「僕を不登校にする気か?」 「連絡先を聞きたいだけだ」  僕は仕方なく、スマホを取り出した。  二神のスマホにメッセージを送る。  連絡帳に『自宅』以外の連絡先が入る。    なんか嬉しい、とこの時思ってしまったのは、  二神には一生黙っているつもりだ。
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