第四話 たったひとつ、欲しいもの

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第四話 たったひとつ、欲しいもの

 あれから、一週間がたった。  三田さんに、二神のことが好きだと明かされ、僕はとっさに、肯定の言葉を吐いてしまった。  そりゃそうだ。相手は、クラスのアイドルなのである。日陰者の僕が、たとえ女の子だったとしても、かなう訳がない。  ということで、僕はあっさり身を引いた。  待ってましたとばかりに、三田さんは二神に猛アタックを始めた。  クラスでも、明るくて人気者の二神と、美少女の三田さんのカップルは、お似合いだと公認され始めていた。  僕は、中学までの時みたいに、ひとりで移動教室まで行き、ひとりで屋上で弁当を食べ、グループ活動の時は、ひとりで困っていた。  慣れたものだった。二神に出会うまでは、ずっとひとりだったのだから。  ……そのはずなのに、家で急に泣きたくなる。  ひどいと、学校で泣きたくなる。ぐっ、と、くちびるを噛んで、耐える。  心の中で、叫びたくなる。  僕が先に見つけたんだぞ、と。  あの日、公園で泣いていた二神を助けたのは、僕なんだぞ、と。  ……自分でも、馬鹿みたいだと思う。二神はものじゃないのに。二神にも、選ぶ権利があるのに。  ……それでも。  僕は心の中で、叫び続けていた。   ○  目を覚ますと、暗闇の中にいた。  ボーッとする頭で思い出す。ああ、午後の授業中に寝て、そのまま放って置かれたらしかった。さすが僕。見事なぼっちっぷりである。 「……電気は……と」  パチリ、と教室の明かりを点けた。  そして、消した。  ……信じられないものを見た気がしたからである。 「なんで消すんだよ。別に暗いところで話したいならいいけど」  すぐ近くで声がして、僕は慌ててスイッチを入れた。  目の前に、腕組みをした二神がいた。 「しっかし、お前よく寝るのな。もう七時だぞ」 「マジで!? なんで起こさなかったんだよ!」 「裕司の寝顔見てたかったから」  ニヤリ、と二神ーー、いや、優が笑った。  僕は、なんだか、お腹の底が、ポカポカしてくるのを感じた。 「……趣味悪いな」  言葉とは裏腹に、僕は自分の頬が緩むのを止められない。  ……でも。 「優には、三田さんがーー」 「俺はお前が欲しいんだよ!」  優が、僕の顔の横の柱に手をついた。  ……あ、これ、テレビとかで昔流行ったやつ。  自分がされるとは思わなかった。  あと、密着感がハンパない。近い。僕より少し身長が高い優を、見上げることになる。 「……俺のこと、嫌いか?」  そんなカッコいい声で近くで言わないでほしかった。  僕は、なんとか正気を保とうとする。 「男同士の恋愛って、気持ち悪いと思うしーー」 「俺は裕司の顔が好みだ」 「え」 「俺は裕司のチャーハンが死ぬほどうまかった」 「は」 「俺は裕司がいないと生きていけない」 「それはないと……」  優は僕の顔に手を添えて言った。 「俺にここまで言わせるのかよ」 「……っ、待て、誰か来たら……」 「これからの人生、俺はお前しかいらない」  このセリフを目の前で言われて。  僕は陥落したのだった。  ちなみに、この日は何事もなく帰った。  ……上機嫌な優と手はつないで帰った。  それだけである。
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