7人が本棚に入れています
本棚に追加
第五話 ふたりだけの国
週末の土曜日、僕は優の家にいた。
結局、僕たちは付き合うことにした。もちろん、世間からは隠れてだ。
堂々と付き合えるほど、僕たちはまだ、強くない。
優はマンションにひとり暮らしだった。
両親の不仲が原因で、高校に入学してから、おばさんが部屋代や生活費を払ってくれていると言っていた。将来的には自分で全部返すつもりだ、と優はなんでもないことのように言う。
……家族仲は悪くないのに、後ろ向きな性格の自分が恥ずかしかった。
部屋はまるで家族向けのように広かった。それが、優の孤独を強調しているようだった。
掃除が大変なんだよな、と優はグチをこぼしていた。なので、僕が手伝おうか、と言うと、いいな、それ、と優は笑った。言ってよかった、と僕は思った。
今日は、優の部屋に遊びに来るようになって、3回目だった。映画のDVDを、ふたりで見ていた。宇宙が舞台のアクションものだった。
僕は、アクションものにはあまり興味がないので、ソファに座ってコーヒーを飲みながらボーッと見ていた。すると、いきなり空いている方の手が握られたので、むせそうになった。
隣の優が、僕の方を見ないまま、手を握っていた。
整った横顔が紅かった。
僕は、いつかの約束のように、その手を握り返した。
ようやく優がこっちを見た。
僕たちはふたりで、笑いあった。
優に出会ってよかった、と僕は心の底から思った。
これで、僕たちの話はおしまい。
最初のコメントを投稿しよう!