ブロンドヘアの女

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ブロンドヘアの女

#3  車のエンジン音が近づいて来るのがわかった。  ジェイムスはプライドの隙間から外を見る。セールスマンではないと思った。なぜなら、真新しい車で、高級車だったからだ。  車が止まり、エンジンが切られる。  降りて来たのは、若い女だった。30歳を少し過ぎたくらいで、ブロンドヘアを掻き上げ、ドアを閉めた。  スタイルもよく、すこぶる美人だった。テレビや映画の中でしか出会えないと思うような女だ。  この家にそんな若い女が来たことなど一度もない。ジェイムスは、ズボンの裾を叩いて汚れを落とす。  砂埃が舞い、床に落ちた。  ドアが、ノックされる。  コンコン。  出るかどうか迷った。  この家に若い美人が来ることが、あまりにも唐突で、不自然に思えたからだ。  コンコン。  金目当てか。  一瞬、頭に浮かぶ。  ジェイムスはまったく贅沢な生活をしていなかった。むしろ、倹約家だった。なので、母親の指輪を売って得た現金は死ぬまで働かなくてもまだ充分あったのだ。  コンコン。  彼は玄関のドアを開けた。  玄関を開けた理由は、人生で一度くらい、いいことがあってもいいはすだ、そう思ったからだ。  美人と会話する、それだけのことではあったが。  玄関に立っていたブロンドの女は、ジェイムスを見ると、ブルーの魅惑的な目で彼を見つめて言った。 「ジェイムス・B・ホーンタッグさん?」 「ああ、間違いない」  彼女は眉を上げ、ほっとしたように微笑む。 「よかったわ。もし違っていたら、底意地の悪い道をまた戻らなきゃいけなくなる」  そう言うと女は、握手するように手を差し出した。 「私は・・・FBI捜査官のケイト・ジェイキンスです」  彼女の言葉に、ジェイムスの開いた口が塞がらなかった。美人の来訪で浮かれていた気分が、一気に萎えた。  と、女は吹き出すように笑い出した。その様子を呆然と眺める。 「あーごめんなさい。ジョークよ。FBIって言うとみんな同じ顔をするのね」  そう言うと女は手にしていたカバンの中から名刺を出してジェイムスに差し出した。  そこにはこう印字されていた。  ロイヤルダッチシェル   マーケティング室 室長  ケイト・ジェイキンス  大企業だとわかった。  ロイヤルダッチシェルは、アメリカでも3本の指に入る石油会社で、知らない人間などいない。  ジェイムスの言葉に、ケイトはチャーミングな笑顔で微笑んだ。 「すごく喉が渇いてるんだけど、水をいただけると嬉しいわ」  ジェイムスは自分の室内を振り返る。とても人を呼べるような家とはいえない。しかも、女の目的がわからない。しかし、野暮な男なら絶対に招いたりしなかっだが、目の前にいるのは現実離れした美人だ。   「汚い家だが、まあ、入ってくれ」  彼は女を家の中に招き入れた。
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