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「星鳥ぃ! 何やってんねん、アホウ!」
「すみませんっ!」
イヤホンから聞こえる星崎の怒号に肩をすくめ、必死に星取り網を振るう。しかし、緊張が祟ってか、星は無様に空振りした網の横を次々とすり抜けていく。
逃した星は薄緑色の粒子の筋を残して、あっという間に成層圏の彼方に消えていった。
(また失敗した)
分厚いグローブ越しに、星取り網の柄をぎゅっと握る。
星取り網は星を取るために特化された捕獲器で、長さは少し短いが、子供の頃、蝉を取るのに使った虫取り網とよく似ている。
だから、使い方は熟知しているつもりだったし、就職する時に研修も受けたのに。
(なんで取れないんだ?)
己の情けなさに、星鳥は大きくため息をついた。そのせいで、ヘルメットの強化ガラスの内側が白く曇り、視界がゼロになる。
この状況で周囲を見失うのは命取りだ。気球型の捕獲船から命綱が伸びているとはいえ、吹き付ける西風に流され続けると、船に戻るのが大変になる。
(やばいやばい)
慌てて口を閉じ、曇りが消えるのを待つ。
(……しかし、あっついなぁ)
つい心の中で愚痴る。宇宙服に似た作業服の中は、もう汗まみれだ。水冷チューブで常に温度が一定に保たれているとはいえ、激しく動くとまあまあ暑い。背中に重い酸素タンクを背負っているから余計にだ。
「お前、またガラス曇らせたな! ため息つくなて何度も言うとるやろ!」
イヤホンからは相変わらず星崎の怒声が聞こえてくる。しかし、不甲斐ない後輩に怒る合間にも、彼は確実に自分の仕事を果たしている。
星崎の動きには無駄がない。星が飛んでくる方向を予測して、さっと網を差し出す。それだけで星は面白いように網へ吸い込まれていく。捕獲率はほぼ百パーセント。さすが中里エネルギーサービスのエースだ。
(いつになったら一人前になれるんだろ)
就職して一ヶ月が経っても、星鳥はまだ一度も星を取ったことがない。このままではクビになる日も近いかもしれない。
より良質で大きな星を捕獲し、顧客に販売するのが、星鳥たちの仕事だ。顧客は仕入れた星を高密度のエネルギー片に加工して、さらに先の顧客に販売する。
星とは、今やこの世界に欠かせない資源で、今から二十年前、星鳥がまだ赤ん坊だった頃、突如として成層圏に出現した薄緑色の発光体だ。便宜上「星」と呼ぶが、夜空を舞う流星ではない。
大きさは野球の硬球程度。発生原因も、正体も不明。ただ研究の結果、原子力発電を遥かに上回るエネルギーを秘めていることがわかり、次世代を担う新しいエネルギー源として、各国がこぞって開発を推し進めた結果、技術的特異点を引き起こし、人類の生活は大きく変わった。
何しろ、星は何にでも使える。
ほんの小さな欠片でも、一部屋を照らすぐらいの光力を発するし、それこそ漫画で見るような空飛ぶ車だって作成可能。
星鳥たち生身の人間が、長時間成層圏にいられるのもそのおかげだ。
その奇跡みたいな特性から、よく「神の御業」だの「魔法」だの言われるが、そもそも人類を発展させた「火」だって、プロメテウスが与えたものだという伝承があるくらいだ。
不可思議な現象を神秘的なものとして扱うのは、いつの時代も変わらない。きっとこのエネルギー体の正体も、未来の子孫が解き明かしてくれるはずだ。多分。
『本日の業務は終了です。お疲れ様でした』
ようやく曇りが消え、自由に動けるようになった時、船に搭載されたAIの涼やかな音声が耳に届いた。
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