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第三十四話 ポンコツ所長のねぎらい
「まさか三姉妹とはねえ…じゃああと、二人はいるってことですか」
お手軽肉巻きに楊枝を刺しながら身を縮こまらせたのは、金剛だった。
「たぶんね。でも杖は向こうにあるわけだし、私たちを目の敵にする理由がわからないわ」
「そうですね……どんなにおっかない研究をしてようと、うちの仕事とは無関係ですからね……うん、うまい」
私はひそかにほくそ笑んだ。親指サイズの巻き物なら、私は完璧に作れるのだ。
「これは想像ですが、我々を『古代種』の側についた厄介者、と考えたんじゃないですかねえ」
香の物をぽりぽり齧りながら、石亀がぼそりと言った。
「つまりあの「キメラ」っていう怪物は『古代獣』じゃないってこと?」
「たぶん。……あの怪物は入手した古代種のDNA、あるいは現代の様々な生物のDNAを元に造られた人工的な生物でしょう」
「そんな技術を持っているなら、杖に拘らなくてもよさそうなものだけれど……」
「そうですね……『グライアイ』は古代種でなければ得られない「何か」を求めているのでしょう」
「それって、つまり「超能力」?」
私ははっとした。『グライアイ』が「ほこら」にあるもう一つの杖を手に入れて、「純血種」を蘇らせたらいったいどうなってしまうのだろう。
「だとすれば我々も「杖」を守らなくてはならないでしょうな。超能力などというものは、持っていてもろくなことがありませんから」
石亀はそう言うと、再び香の物をぽりりと噛んだ。
※
「結局、今回も依頼の中味を大幅にはみだしちゃいましたね」
事務所からほど近い中華料理店『招来』のテーブルで、ランチを共にしていた古森が言った。
「うーん。うちってそういう宿命なのかもしれないわね」
私はレタスチャーハンを口に運びながら、しみじみと漏らした。
「でもあの久里子さんのお友達だっていう監督さん、勇気がありますよね。武術をたしなんでるわけでも超能力を持っているわけでもないのに、一人で危険な場所に行くんですもの」
古森が唐突に映画のクルーに話題を向けると、隣で小籠包を食べていた久里子さんが「無鉄砲なだけだよ」と言った。
「何か一つのことに夢中になるような男は、大概そうさ」
「でもそのひたむきさがないと、長く続けられないんじゃないですか?」
私がライルを擁護すると、久里子さんは小籠包をつまむ箸を止めて「だからあの年になってもスターなんだよ。一足先に逃げだしたあたしが親しい口を利いちゃいけないくらいのね」と言った。
「そんなこと……だってわざわざロケ地を日本にしたのも、うちの事務所を訪ねてきたのも久里子さんに……」
私がそこまで言った時だった。ふいに傍らの携帯が着信を告げ、私は慌てて手を拭いた。
「はい、汐田です……えっ、リサさん?」
驚いたことに、電話をかけてきたのはリサだった。
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