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第五十四話 若干狼の日
「さあ卑怯者の三姉妹さん、監督とうちの大事な職員を返してもらうわよ!」
私が見栄を切ると、ディノーとエニュ―オーが『古代神獣の杖』と『雷獣の杖』の頭部が着いた先端をこちらに向けるのが見えた。
「杖も人質も渡すものか!」
神獣の頭が乗っている円形の台座が光った瞬間、私はまたしても後ろに吹き飛ばされていた。
「――きゃっ!」
岩肌を転がって制御不能に陥った私を受け止めたのは、起き上がって再び前に進み出た金剛だった。
「ごめんなさいコンゴ……大丈夫?」
「気にしないでくださいボス。あまり動けなくてたまたまここにいただけです」
金剛はそう言うと、少し動くのが早かったというようにへたりこんだ。
「ははは、いいざまだ探偵。今度は高く放り投げて地面にたたきつけてやろう」
ディノ―が残虐な笑みを浮かべると、再び杖の先端を私の方に向けた。
――だめだ、ここまでか。それにしても『神獣』はなぜ敵に力を貸すの……
私が絶望的な思いに浸りながら、飛ばされぬよう脚を踏ん張ったその時だった。
「おおおおーん」
突然遠吠えのような声が響いたかと思うと、金色の影が『グライアイ』の脇を矢のように掠めた。
「――何っ?」
岩から岩へと飛びうつり、二本の杖を咥えて私の近くに降り立ったのは金色の狼――大神だった。
「ウルフ、お手柄よ!」
私が快哉を叫ぶと、金色の狼はひと声「おーん」と哭いてゆるゆると人間に――裸の男性の姿に戻った。大神はほんの数分だけ金色の狼になることができ、その間は通常の何倍もの能力を発揮できるのだ。
「ボス……後をお願いします」
そう言うと、裸に戻った大神はその場にぐったりと崩れた。
――たぶん、杖の頭についている丸い台座を真上から見て「変身」しちゃったんだわ。
私は狼が離した二本の杖を拾い上げると「ここまでのようね、グライアイ」と言った。
「ふん、忘れてもらっては困る。「切り札」はこちらの手の中だ探偵!」
ぺムブレード―がそう言い放つと、二人の「姉妹」がナイフのような物を人質の二人に突きつけた。
「さあ、おとなしく杖をこちらに寄越せ ……言っておくが、少しでもおかしな動きをすれば、この二人を殺す」
「人質を殺したら、手術とやらもできなくなるわよ」
「構わん。生体組織は死んだ後で採取しても一向に構わないのだ」
「――卑怯者!」
私が悔しさに歯噛みした、その直後だった。
「……やり方が汚いねえ。そんな物騒な物をやたらにつきつけるもんじゃないよ」
洞窟に久里子さんの声がこだましたかと思うと、小さな影がくるんと半回転して姉妹の手から凶器を次々と叩き落した。
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