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第二話 端の変わった杖
「それじゃあ、全員分の煮込みが終わったら会食にしましょう。汐田さんたちも盛り付けが終わったテーブルの方に移動して」
「はい、先生」
私はミートボールのキャベツ添えを皿の端にひっそりと並べると、飛燕に意味ありげな目線を送りながらテーブルの方に去ってゆく「先生」の後ろ姿を見やった。
――あーあ、私も先生くらい上手にできたら、美形男子が向こうから寄ってくるのにな。
だが、ものは考えようだ。こういうアクシデントがあった方が、自然な参加者に見えてターゲットに怪しまれにくい気がする。気がするだけだけど。
「あっ、それは駄目よ」
ふいに声がしたかと思うと、二十代とおぼしき女性受講者が荷物を置いてあるテーブルに駆け寄るのが見えた。よく見ると受講生が連れてきた四歳くらいの女の子が、立てかけてあった杖を手にとって振り回しているのだった。
母親らしき女性は女の子から杖を取り上げると「ごめんなさい」とこちらを向いて頭を下げた。
「……あっちに行ってましょ。触ったら駄目よ」
親子がそそくさとフロアの隅に移動すると、入れ替わりのように顔を強張らせた真夕子がテーブルに近づき杖を手に取った。
――ははあ、あの杖は真夕子先生の物だったのか。
真夕子はなぜかアシスタントの飛燕に近づくと、手にした杖を「これ預かってて」と渡した。
「承知いたしました」
飛燕が私たちの脇を通って別室に向かう直前、私は視界の隅をよぎった杖の一部を見てぎょっとなった。「握り」に当たる部分の形が異様だったからだ。
――なんだあれは。
私が目を留めたのは杖の一番上の部分についている丸っこい物体だった。握り拳大だから作り物だとは思うが、何かの頭――トカゲと鳥の中間のような形で人間に似た目がついている――らしきものが取りつけられていたのだ。
――なんであんなものを教室に?自宅に置いとくならわかるけど。
私は飛燕が杖と共に別室に消えた後も訝しみ続けた。若い女性のファンも多い子の教室に、わざわざイメージダウンになるような物を持ってくるなんて。
大事な物なのかもしれないが、だったらなおのこと子供が気安く触れないような場所に保管すべきなんじゃなかろうか。
私は一品料理の件も浮気調査の件もすっかり忘れ、その後も謎の杖のことを考え続けた。
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