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第三十五話 もっとも安全なチーム
『汐田さん、大変なことになりました。「ほこら」が怪物に襲撃されて杖が奪われそうになりました』
「奪われそうに……ってことはまだ、奪われたわけじゃないんですね?」
『たまたま居合わせた管理人さんが、隙を見て杖を持ちだしたんです。管理人さんは怪物に襲われながらも何とか逃げおおせ、私たちの合宿所に避難してきたんです』
管理人……というと、伊妻修吾の父親か。素早い判断は管理人ならではだろう。
『管理人さんによると、怪物に襲われかけたところに「神獣」が現れ、怪物と神獣の戦いになったそうです。どうなったかは逃げてしまったのでわからないそうですが』
なるほど、杖を奪いに来た怪物は『グライアイ』が放った「キメラ」で、それを本物の古代種である「神獣」が迎え撃ったというわけか。
『管理人さんと私、それにあゆみさんの三人で合宿所を出て今は撮影のために借りた廃校に身を隠しています。管理人さんは「できれば騒ぎが収まるまで誰かに「杖」を預かって欲しい」と言っています。探偵さん、お願いできないでしょうか?』
「預けられてもちゃんと管理することは難しいけど……いいわ、いったん預かります。で、私はどうすればいいの?」
『私たちのいる廃校の場所をお教えしますので、できれば一、二時間以内に受け取りに来ていただけますか?ここも安全ではないと思うので』
「……わかりました。じゃあ地図のデータか何かを送ってください」
「ありがとうございます」
携帯に地図のデータが届き、私が通話を終えると古森が「ボス、これは罠です」と言った。
「どうしてそう思うの?」
「ボスが着任されてから今までに単独で調査に行かれたことが十数回、そのうち罠だったことがやはり十数回、つまりこれは罠です」
「……だとしても、本物のリサさんである可能性がある以上、行かないってわけにはいかないわ。それに本物なら問題は無いわけでしょ?」
「本物じゃなかったら大問題です」
「大問題でも、なんとかすれば大した問題じゃなくなるわ。……わかってヒッキ、事務所に戻ってる暇はないの。今すぐ行かなくちゃや「キメラ」が杖を奪いにくるかもしれないわ」
「……わかりました」
「ありがとうヒッキ。悪いけど、石さんたちにはあなたから伝えて置いて」
「――私も行きます」
「え?」
「時間がないんですよね?私が行けば二人一組になり、単独行動ではなくなります」
「ヒッキ……」
「あたしも行かせてもらうよ」
突然、私たちの会話に割って入ったのは、久里子さんだった。
「そんな、駄目です。久里子さんは調査員じゃないんですから」
「杖斎先生のところにだって、一緒に行ったろう?怪物が襲ってくる可能性があるんなら、人手は多い方がいいんじゃないかい?」
「ええと……わ、わかりました。ただし状況によっては避難してもらうこともあり得ます」
「了解したよ。……そんじゃ、臨時の女性チームでひと暴れしてくるとするかね」
久里子さんはそう言って口許を拭うと、にやりと笑って親指を立てた。
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