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第三十六話 物置部屋の秘密
撮影現場から車で一時間ほどの場所にある廃校は、まだ五時前だというのにうっすらと闇の気配を漂わせていた。
私たちはグラウンドの一角にある鍵の壊れたフェンスを見つけると、あたりに人目がないことを確かめた上でそっと敷地内に足を踏みいれた。
「あれが体育館ね。通用口の前で待ってるっていう話だけど見える?……ヒッキ」
私は背後の古森に尋ねた。古森は近眼だが暗いところでは普通の人以上に目が効くのだ。
「誰かいるように見えます。……でも、もう少し近づいて見ないと」
「じゃあ行きましょう。……みんな警戒を怠らないで」
私たちはグラウンドを横切ると、体育館の裏手に向かって移動を始めた。やがて建物が間近に見える位置まで来ると、扉の前にいる人影が身じろぎするのが見えた。
「――あゆみさん!」
「……良かった、本当に来てくれたんですね?」
私たちを出迎えたのは、朽木あゆみだった。武術の心得がある彼女がリサたちについていてくれることは一つの安心材料であり、私はほっと胸をなでおろした。
「管理人さんとリサは?」
「中にいます。……どうぞ、ご案内します」
私が肩越しに後ろを振り返ると、古森が「気を許さないで」というように眼鏡の奥の目を見開いた。
※
「うわ、広い。小学校の体育館なんて十年ぶりだわ」
私は西日が染めた体育館の床を、子供に戻ったような気分で踏みしめた。
「お二人は搬出用出入り口の近くにある物品庫にいます」
「物品庫?」
「すぐには見つからず、脱出口も近いという場所です」
「でも、長くはいられない……」
「はい。今日一日が限界かと思います」
「杖は私たちが預かるとして、あゆみさんたちはこれからどうするの?」
「合宿所に戻ります。他に行く場所もないので……ただ管理人さんをお宅にお送りしないことには安心して戻れません」
「そうね」
私はあゆみが言いたいことがわかった。杖を預かるついでに、できれば管理人を家まで送り届けて欲しいというのだろう。
「管理人さんも可能なら私たちがお宅までお送りします。……とにかく、みなさんとお会いしなくては」
私が本音を口にすると、あゆみは頷いて物品庫の扉を開け放った。
「……あゆみさん!」
思いのほか広い空間の奥から緊張した顔をこちらに向けたのは、リサと段ボールに腰かけていた痩身の初老男性だった。
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