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 救助指定区域では、ポンプ隊は基本的にペアで活動するらしい。まれに一隊配置の出張所もあるが、一般的には先行隊と送水隊とに分かれており、先行隊は筒先を保持しながら火災建物に進入、救助検索活動を優先させる。後着隊は水利部署し、先着隊が放水するために必要な水を先行車に送るのが役目だという。だから、一隊配置の署所でも、先行隊と後着隊とを決めておけば不都合はないという。  救助指定隊が他の隊に先着を許すことは、ある意味恥 であるそうだ。特に運転担当である機関員にとっては、救助指定区域に出動し、最先着し、水利を確保することが大前提となるので、いかに早く車庫を出て、いかに早く現場に到着し、いかに早く水を出すか。それが勝負なのだという。他隊にその役目を奪われるのは、屈辱なのである。 「それにな、救急隊員は、もともとがポンプ隊員だ。消防隊員の基本は赤い車、ポンプ隊員ってことだ」  草薙は驚いた。  消防学校を卒業した新人は、皆、初めは赤い車に乗る消防隊員として配属される。そこから希望によって、もちろん本人の努力もあって、救急隊員への道を進むことになるのだという。 「消防車両を運転するための研修を終えないと、機関員にはなれないんだ」 「え、じゃあ、森山さん、赤いのも運転できるんですか。救急車だけじゃないんですか」  森山は、へっと鼻で笑った。「もちのろんだ」 「水無月さんも、ですか」  「わたしは機関員の研修は受けていないけどね」と苦笑する。  初めはみんな赤い車に乗るんだと森山が声を大にして言った。 「森山さんは、それから機関になろうと思って研修に行ったんですか」  ああ、と森山は答える。
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