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 腕時計を見れば、十八時を過ぎている。 「出動するのは、なにも消防署所に待機している部隊だけではないんです。現場付近にいる出動可能な隊、今の我々みたいな、病院から引き上げる途上の隊とかね、直近適応の原則で出動します」  水無月は草薙に説明した。  前の席にいる二人と、草薙の隣にいる川村は、出動先の住所を書き取り、それぞれ車載の地図帳を広げ、出動先を確認している。  どこですか、近いですかと訊こうとしたその時、追加情報が流れた。「その後の一一九番情報によると、この火災は延焼中。逃げ遅れがある模様」  頭の中で素早く情報が錯綜する。火災、逃げ遅れ、救出、病院搬送、運ぶのは救急隊、それをやるのは俺たち、だ。  草薙の身体は、またもぶるっと震えた。 「いこうか」抑揚のない水無月の言葉を合図に車は動き出した。同時に、勢いよくサイレンが鳴り響く。  陽はとうに落ちている。行く手には闇である。街灯はあるが申し訳程度の照度だ。都会とは違う。  片側二車線道路の歩道には、ローダーにより寄せられた雪で埋め尽くされている。歩いている人はいない。  救急車は、闇に吸い込まれているかのような勢いで加速していった。 「出動先は、矢留中央消防署の救助指定区域。つまり、矢留中央消防署の隊が最先着するはずだとされているところです。あと二、三分で到着します」水無月が前を見据えたまま教えてくれた。  救助指定区域は、矢留中央消防署の救助指定区域、中通出張所の救助指定区域というように、消防署所ごとに設定されているということだった。先を争って現場付近に消防隊が殺到するわけだが、地理の関係上、現場に最先着する消防隊を指定することで、現場での活動を効率的にすることができるという考え方だそうだ。
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