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「俺の師匠はね、機関員たるもの、出火報が流れたら、ほぼ同時にそこまでの道順、水利がぱっと頭に浮かばないとダメだって言ってたよ。ということは、管内の地図が頭にすぐ浮かばないとだめってことだよな。で、師匠は、現着までの所要時間まで言えてたんだ。すげえよな。交通事情なんてその時々で変わるのにさ。あらゆる時間帯の道路事情を把握していたんだよ」
「モリさんもそれに近いじゃない。頼りにしてますよ」水無月が呟くように言う。
俺なんかまだまだだ、おだてるなよと森山は謙遜した。
べらんめえ口調で傍若無人な感じの森山機関員だが、無骨な、しかし誠実に職務をこなす男に見えた。ベルトの上に腹が乗っているような体型は別として。
「道路事情なんかはいつ調べるんですか、当務中に出向したりするんですか」
「まさか。非番とか、日勤の時とかにするんだよ」出動があったらどうするのだと森山は声を大きくした。日勤日は月に一回ないし二回しかないが、その日は事務仕事なので、出動はしないのだという。
「森山さんのほかにもそんなことをしている機関の方はいるんですか」
「いないだろうな」
森山はあっさり言い切った。
「いまはカーナビがあるからな」
水無月が言った。
「ですよね。今の時代、カーナビがありますからね。それに水利情報なんか組み込まれていたら、頼っちゃいますよね」
は、と森山は鼻で笑った。
「あのねえ、カーナビっていっても、所詮は機械だよ。信用ならない。自分の目で見て足で行ってみてこそ、なんだよ。画面では大丈夫だった、なんて言い訳になると思うかい。俺たちの仕事は、人の命がかかっているんだぜ、確実な手段を使わないとダメでしょう」
だから俺は使っていないよと森山は言う。
そういえば、虎丸も同じようなことを言っていたことを思い出した。
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