届かぬ背中に、届けこの音

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 聖哉はいつだって強引だ。俺にはそれが分かっていた。  だから、ほんの少しくらいは素直じゃない反応をしたって、許されるのだ。  これが俺なりの兄への甘え方だった。  そうして俺たちは部活見学ののち、サッカー部に入部することとなった。  もちろん聖哉はサッカー部でもすぐにレギュラー入りした。  大会でも優秀なフォワードとして活躍し、チームは秋季大会では地区優勝をした。  一方、俺は2年生の春になってもまだ補欠メンバーだった。  ……こうなることはなんとなく分かっていたさ。  聖哉はいつだって俺の先を行く。そして、俺はその背中を追い続ける。それが常だったからだ。  だけど、俺は諦めたくなかった。だから人一倍練習した。  毎朝の練習はもちろん、みんなが帰る時間になっても一人でシュート練習することもあった。  聖哉は「俺も残ろうか?」なんて言うこともあったけど、あいつを無駄に付き合わせるのは嫌だったから、そのたびに断った。  これはすべて俺自身のためなのだから。あいつが怪我をするリスクを無駄に高める必要はない。  俺は風が吹こうと雨が降ろうと、ただひたすらに練習を続けた。そして、その努力は、2年生の秋になってついに実ったのだ。
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