届かぬ背中に、届けこの音

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 俺はいつだって、聖哉(せいや)のあとを追いかけていた。  聖哉は俺の双子の兄だ。小学5年生の頃、草野球の少年チームでは四番打者のエースだった。  一方、その頃病弱だった俺は、聖哉にキャッチボールで遊んでもらうのが精一杯だった。  だけど、いつか同じチームに入りたい。……そう思っていたが、突然聖哉はチームをやめた。  芸術に目覚めたとか、これは神のお告げなんだとか、訳の分からないことを言いながら。  しかし、聖哉には確かに芸術の才能もあったらしい。  小学5年生の冬には絵画のコンクールで賞を受賞した。それには父も母も大喜びだった。  ――その芸術も、たったの数ヶ月でやめた。どうやら飽きてしまったらしい。  実は俺もその頃、こっそりパソコンでお絵かきをしていたが、誰に見せることもなく終わってしまった。  それから次はなんだっけ。……ああ、そうだ。  小学6年生になった聖哉は(――双子の弟である俺も同学年だが)、何故だか囲碁教室に通い始めたのだ。  少しの間だったけど、俺も一緒についていっていた。  しかし、これはクラスメイトで囲碁が強いらしい早川という女にボロ負けしてすぐにやめてしまった。
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