【友からの手紙】

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【友からの手紙】

―2012年3月頃― 異国の地で行われた大きなロードレースの終盤に、ゴールゲートから少し離れた場所で選手たちが次々と落車する事故が起きていた。 その落車事故に巻き込まれた翔≪アキラ≫は、弱々しく呼吸しながら地面に倒れていた。 「ハァ~・・・ハァ~・・・」 翔は激しく転倒したせいなのか、意識が朦朧としており、周りの人たちの声がゆっくりと遠くへと聞こえた。 翔は虚ろな目で雲が流れる空を見つめていた。 なぁ、ハル・・・オレさぁ、たまに思うんだぁ。 何気なく皆とあの場所に集まって、たわいない話で無邪気に笑い合っていた・・・“時間に戻りたい”って。 だけど・・・どこか冷めた大人のオレは、“振り返っても意味がない”って現実的を思い始めるんだ。 ハル、お前ならどうする? 段々と意識が遠のいて行き、翔はゆっくりと目を閉じた。 ―10年後の2022年2月中旬― 日本の中央都市、東京。 東京では日本人だけではなく、いろんな国からやって来た外国人が生きるために仕事などして生活していた。 翔が肩にスポーツバックをかけて、都市部にあるマンションの一室に帰って来た。 「・・・ただいま」 部屋のリビングから長い髪でメガネをかけた女性が、少し駆け足で翔が居る玄関まで出迎えた。 「翔くん、おかえり」 「うん、ただいま・・・優衣(ゆい)」 優衣は翔と一緒に暮らす、恋人である。 靴を脱いだ翔は、その足でリビングに向かう。 「スポーツトレーナーの直人さん、何か言っていた?」 疲れ様子の翔は、ソファーに腰掛けた。 「いつもと・・・同じだよ。“いつでも、現役復帰が出来る”って。あと・・・たまたま来ていた社長からは、“たまには、心と体を休ませるために、どっか旅行にでも行けばいいじゃないか?”って」と、翔は覇気がなく言う。 「・・・そう」 優衣は台所で珈琲メーカーで淹れた、コーヒーをマグカップに注いだ。 「そう言えば・・・最近、体調不良だったけど。もう大丈夫なのか?」 優衣は困った顔して、「うん・・・この前まで、年末年始の仕事続きだったからねぇ。それで体調を崩したみたいで」と、翔の前にあるテーブルの上にマグカップを置いた。 「そうかぁ・・・」 翔は家の窓から空を見つめる。
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