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遠雷って、夏を告げる音に聞こえない?
不意に懐かしい声がよぎったのは、胸の真ん中あたりで響くこの音のせい。
さっきまで、遠くに聴こえていた雷の音が、放課後の始まりと共に近づいてきた気配。
「もうすぐ降るな、これ。傘持ってきてねーし」
「マジか! オレもだけどな」
ジャージ姿の男の子たちが、昇降口から見える曇天に、舌打ちをしながら通り過ぎていく。
これから部活なんだろうな。
せめて終わる頃には雨が上がっていればいいね。
いつもなら、一緒に帰る友達に彼氏ができたのは先週のこと。
おめでとうと寂しさの帰り道に少しは慣れた。
外靴に履き替えながら、トントンとつま先を床に打つ。
どうか家につくまでは、降られませんように。
そう祈りながら帰路につく。
結局、学校の門を抜けた辺りで、バケツの水をひっくり返したような土砂降りに変わり、見る見る間に町を黒く染めていく。
駅までの道、カバンを頭にのせて走ろうとして、乱暴に顔を殴る大粒の雨にすぐあきらめをつける。
目の前にあった先日閉店したばかりのパン屋の庇の下へと飛び込んだ。
パラパラと庇にあたる不規則な雨のリズム。
ビシャビシャになった顔をハンカチで拭うと、髪の先まで、すでにびしょ濡れ、拭くことも嫌になってシャッターにもたれる。
いつ止むのかわからないザワザワした不安から逃れるように、イヤホンを装着した。
何を聞こうかと迷って目にとまったスマホの中のいつもの一曲、それをタップした。
流れてくる楽曲に、そっと目を閉じる。
むせかえるような雨の匂いの中、あの日の君が、私の目を見て笑った。
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