遠雷

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 遠雷が聴こえたら、夏がくるよ  あじさいの終りの歌詞、あの日の牧くんの言葉が重なる。  最後まで曲が終わると、リピートでまた流れ出す。  牧くんの好きだったこの曲を、雨の日に聴くのが癖になってしまった。  遠雷の意味を知らずに聴いていた私に、教えてくれた人の笑顔が浮かぶ。  あの頃は、わけのわからない胸の痛みに泣いた。  それは少しずつ薄れ、ゆっくりと淡い想い出に変わりつつある。  それでも雨の日は今も嫌いだ。  じっと目を閉じて、イヤホンの中で静かに響く、あじさい。  雨足が弱まった気がして、そっと目を開けた先に立ち止まっている人がいた。  黒い傘を差す人が、あの日のように微笑んで口元が『久しぶり』と動いていた。  物も言えずに静かにイヤホンを外して、あの頃よりも背の高い彼を見上げる。  どうして? 「三原、だよね?」 「牧くん……?」 「そう、元気だった?」  目を細める笑顔はあの頃のまま、私の名前を呼ぶ声は少し低くなった気がする。  まるで狐につままれたような気持ちで彼を見つめた。
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