遠雷

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「なんで?」 「え?」 「だって、牧くん、引っ越しちゃったし」 「うん、親の転勤で急に引っ越しになっちゃって。で、高校を機にまたこっちの方に戻ってきたんだよね。今は隣町に住んでるよ」  そう言われたら、牧くんの制服は隣の男子校の制服じゃないか。  進学校で有名なあの学校だ。 「牧くんって、頭いいね、やっぱり」  制服を指さしてつぶやく私に牧くんはクックと笑う。 「久しぶりの会話がそれ?」 「あ」  口を開けて固まった私の顔を見て更に笑う。 「久しぶりだけど、三原って、やっぱ傘持ってないんだね」 「持ってないわけじゃなくて、忘れただけだよ! あの日も!」 「この時期に忘れるとか冒険者なの? それとも紫陽花みたいに水浴びしたい?」  ホラと私のために開けてくれる傘の左側。  パランパランと響く雨音に急かされるように飛び込んだ。 「駅まで一緒でしょ」 「はい、じゃあ、その、よろしくお願いします」 「うん、一回貸しにしとくわ」 「また、それ言う!」  まるであの日の続きみたいに会話が弾みだす。  牧くんの右肩を濡らしながら。 「何度か駅で見かけてた、三原のこと」 「え? そうなの?」 「うん、相変わらず友達と一緒で楽しそうだなって」 「もっと早く話しかけてくれたらよかったのに」 「思春期男子には難しい。男子ばっかの中にいるせいで女子に話しかけるなんてどんだけハードル高いことか。さっきだって大分勇気だした」 「じゃあ今度見かけたら私から話しかけようかな」 「そうして貰えたら助かる。その代わりまた三原が雨宿りしてたら、オレが拾うから」  見上げたら牧くんと視線が絡んだ。  その優しい目を観ていられずに、視線を足元の水撥ねに彷徨わせる。  
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