ごめんな、元気で、幸せで

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 「ごめんな」  俺、埜崎孝哉(のざき たかや)は2年と8ヶ月交際した恋人の西条かれんに言った最後の言葉だ。 涙を流すこともなく、追いかけて「行くな!」「行かないで!」なんて、ドラマみたいにすることもなく、かれんは俺に「元気で」とだけ言って俺たちは別れた。  俺は昔から海外で仕事がしたいという夢があった。ちょうど、希望の仕事に空きがあり挑戦したいと思った。 それをかれんに伝えた。 かれんは離れることも別れることも嫌がった。もちろん俺も嫌だった。 ついてきてほしいとも言おうと思ったが、かれんはかれんで好きな仕事をしている。 海外に行ったら日本に戻ることはないかも知れないことも伝えた。 最後まで話し合って話し合って、結果、別れることを選んだ。 選んだ、と言うよりも選ばせた、と言った方が正しいかも知れないな。 身勝手な男だ、俺は。  まだお互い25歳という若さ。 勝手ながら俺は、結婚とかよりも色々なことに挑戦したいという気持ちの方が勝っていた。実際、結婚の話などは出たことはないけど、3年近く交際したのだからゆくゆくはの気持ちは少なからずあったが、まだ俺には野望の方が大きかったのだ。 だから、俺は海を渡った。 なんで今、こんな4年前ことを思い出したのか。 それは最近、風の噂でかれんが結婚したと聞いたからだ。 お腹には赤ちゃんもいると。 あれからかれんとは一度も会っていないし、これからも会うことはないだろう。 だからこそ、どうか、どうか、幸せで。
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