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『生まれ故郷の唄』(透みや)
「あら、“スカボロー・フェア”。懐かしいわね」
ラジオ越しに流れているのは、今流行の外つ国の2人1組が歌っているものだった。
“スカボロー・フェア”……確か、元々はイギリスの伝統ある歌なんだっけ。
「昔、よく母が歌ってくれていたわ」
そっか。みやこちゃんのお母さん――アリスは、イギリス人だったんだっけ。
「……行きたい? イギリス」
今なら誰も咎めやしないし、何なら僕の力で連れて行くことだって。
だけどみやこちゃんは一瞬目を見開いてすぐに、ふわりと微笑んで。
「良いの。もう、こんな年ですもの」
僕は、やるせなくなった。
彼女は、解っているんだ。
行ったところで、もう歩き回れるほど若くなく、元気もないことに……
それなら、僕がおぶって歩き回るのに。
だけど彼女が望む以上、これ以上は何も言えなかった。
あぁ……もう少し、あともう少し早く。
戦争が終わってくれていたら、きっと彼女も思い切れただろうに。
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