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『正直な答え』(剣ヶ丘夫婦)
困りました。
帰ってきてから旦那さまの機嫌が、ずっと悪い様子です。
いえ、いつも不機嫌そうな表情はしているのですが……
それとは別に、明らかに不機嫌そうだなと何となく感じ取れるのです。
本当に、何となくなのですが……
目が合う時。元々厳しめの眼差しがより一層険しくなるので、恐らく原因は私かと思われるのですが……
思い返してみても、まったく心当たりがなく……答えに辿り着けない自分の不甲斐なさが、情けないです。
聞いてみた方が、良いのでしょうか……?
でも、やはり自分で気付いて謝った方が良いのでは……?
あれこれ考え、頭を悩ましていると。
「おい」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「………お前、透と何を話していた?」
…………え?
透さんって、“鷺宮山の透”さんで合ってますよね……?
この島で透さんと言えば、その方しか思い浮かびません。
ですが、どうして今この流れで透さんが出てくるのでしょう?
普段は名前を口にするのさえ嫌がるほど、透さんのことを嫌っておいでなのに……
確かに先程、お買い物している最中にお会いになりましたけど……
「えっと……他愛ないお話ですよ。最近小さな子を引き取ったお話や、最近お読みになった中で特に面白かった本の内容など……」
「……本当に、それだけか」
「は、はい。本当にそれだけです」
ここで嘘を言っても、私が得することなんて何もありません。
今お話した内容は、嘘偽りのない真実。
真っ直ぐに旦那さまを見つめて、姿勢を正して伝える。
すると旦那さまは、しばらくこちらを凝視し続けました。
かと思いきや、急に項垂れて大きく溜息をつかれました。
「えっと、だ、旦那さま?」
「…………良かった」
え。い、いま、なんと……?
私の聞き間違いでなければ、今旦那さまは「良かった」とお呟きになられて……!?
頭が混乱し整理もつかないでいる最中。
今度は右肩に重みがのしかか……えっ!?
だ、旦那さまが、私の肩に!?
あ、あああ頭を乗せていらっしゃる!?
「……………」
私はもう大パニックを起こしているせいで、危うく奇声を上げそうになっているのに対して。
旦那さまは無言で、今の状態を維持していた。
私が何とか奇声を上げずに済んでいるおかげで、辺りは静寂に包まれていて。
代わりに背後で、パタパタという音が聞こえた。
これは、もしや――――
「あ……あの、旦那さま……」
「……何だ」
「その……私がこう申し上げるのも烏滸がましいかもしれませんが――」
“もしかして……嫉妬、されましたか?”
旦那さまは、答えてくれなかった。
だけど、ぐりぐりっと肩を押し付けるように頭を寄せて下さったのと。
まだパタパタと振っていらっしゃる尻尾の音が、何よりの答えとなりました。
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