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『種族を超えた愛』(月見師弟)
“子なんて成せません”
“おやめなさい、貴方は頭領なのですよ”
“ましてや半妖、しかも化け狐のだなんて”
“碌なモンじゃありません”
「――――師匠は、どうしてお稲さんを奥方として迎え入れたんですか?」
透の疑問は、至極最もだ。
むしろこの月見島に住むもんなら、誰だって持つであろう疑問だ。
娶ると大々的に宣言した時なんか、そりゃあもう家から大批判を食らった。
耳にタコが出来すぎて、引き千切って獲れた分だけタコ焼きにしてたらふく食えるくらいに。
当たり前といえば当たり前だった。
人間に比較的友好な屋島の狸の血を引いているとはいえ、どちらつかずの存在として扱われがちな半妖となれば少し話が違ってくる。
半妖を良家の伴侶に、という考えの受け入れはまだまだ浸透していない。
加えて狸と古来より嫌悪し化かし合ってきた化け狐の一族たち――その末端とはいえ、末裔の部類に入るとなれば殊更。
頭領として見れば、許すわけにはいかない婚姻。
もし俺がアイツと出会わず、別の女ダヌキを娶っていたなら歴代の頭領たちと同じ判断を下していただろう。
だけど……
「さぁ、何でだろうな」
それだけ答えると、案の定透からは何も聞き返されなかった。
聞き返したところで教えてくれないというのは長年の付き合いから学んだというのもあるだろうが……
少し前に人間に助けられたというコイツなら、きっと感じ取れたのかもしれない。
――――もしかしたら、いつかコイツも出会える機会があるかもな。
“行き場のない娘”を目の当たりにしたら。
手を差し伸べたくなる愛情ってヤツを。
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