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② お前はどこから来た?
「あと、1時間ちょっとだよな」
「マジ? マジでやるの? あほらしい。そういう言い伝えにはね、何か違った意味があるのよ。言葉通りに乳飲み子が『天国から来ました』なんて言うわけないじゃん。司郎に変なことしないでよ」
司郎を抱き寄せる塔子。乳飲み子は眠ったまま口をもごもごさせている。
「俺はやるよ。こんなこと一生で何度もできることじゃないだろ」
洋一は、起き上がって、ベッドで腕を組みあぐらをかいた。
「どうぞ、ご勝手に」
洋一に背を向けて寝てしまう塔子。
チャンスを逃すまいと、ベッドの上で横になったり座ったり、落ち着きなく時間をつぶす洋一だったが睡魔は容赦なく襲ってきた。あぐらをかいていても気がつくと目をつぶっている。
「ああ、いかんいかん。トイレに行って、顔を洗って目を覚まそう」
さすがに顔を洗うと少しは、眠気がおさまった。時計を見る。11時55分。
「あと5分だ。塔子、塔子あと5分で午前0時だ。起きろよ」
背中を向けている塔子の肩をゆするが起きる気配はない。それどころかいびきまでかいている。
「爆睡だ。もういい。俺一人でもやる」
デジタル時計の表示が0時00分になった。洋一は、乳飲み子の司郎を覗き込む。右手の親指を吸いながら寝ている。
「おい、司郎」
小声で呼んでみる。無反応だ。洋一は、司郎の頬をなでてもう一度呼んだ。
「司郎。お、お前はどこから来たんだ?」
司郎の眉間にしわが寄る。
「お、起きるのか!」
「ふええええ」
泣き出す司郎。夜泣きだ。洋一は、慌てて抱き上げた。
「よしよし、ごめんよ。お父ちゃんが悪かったよ」
「あたりまえじゃん。ちゃんと寝かしつけてよ」
いつの間にか、塔子が目覚めて見ていたが、そう言うとまた背中を向けて寝てしまった。司郎を抱いたまま、あぐらをかいてあやす洋一だった。
やっと、泣き止んだ乳飲み子をそっとベッドに寝かすと、洋一は力が抜けるように仰向けに寝転んだ。
「乳飲み子が、前世を答える……。んなわけないよな」
ぼそりと言うと、数秒で意識が遠のいた。
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