① 真夜中の伝説

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① 真夜中の伝説

 ベッドルーム。  パジャマ姿の洋一(よういち)が、バスタオルで髪を拭きながら入って来た。ベッドサイドランプは暗めにしている。 「司郎(しろう)はよく寝てるかな?」  洋一は、ベッドで肘枕(ひじまくら)をして横たわっている妻の塔子(とうこ)に言った。塔子はネグリジェ姿だ。 「うん。今日は、いつになく早く寝た」  そう言って塔子は、胸元で寝息をたてている乳飲(ちの)()の頭を優しくなでる。 「そっか。俺さあ、今風呂に入ってて思いだしたんだけど」  乳飲み子の司郎を挟んで、洋一はベッドに横たわる。 「何を?」 「高校の授業のこと。倫理社会って科目をとってたんだ。その倫社の授業も先生も面白くてさあ」  洋一も塔子と対面するように肘枕をついた。 「りんり? 何か難しそうな授業ね」 「それがさあ。面白い授業だったよ。哲学とか、宗教とか民俗学とか分かりやすく話してくれる授業だった」 「それ、難しいじゃん。どこが面白いのよ」 「普段の授業では出てこない話をしてくれてさあ。その中で民俗学の学者の話があったんよ」 「どんな?」 「伝説とか言い伝えとか研究している学者がいて、その学者がある地方に不思議な言い伝えがあるって言うんだ」 「ふーん。どんな?」 「生まれて一歳になる乳飲み子の誕生日。午前0時に、乳飲み子に『お前はどこから来た?』って聞くと答えるそうなんだ」 「何それ、前世を聞いているの? 一歳の乳飲み子が答えるわけないじゃん。でもお話としては面白いね。その先生は自分の子どもに試したの?」 「それがね、先生がそのことを知った時には、子どもがもう大きくなってたからできなかったって。でさあ、俺たちに子どもができたらやってみなって言われたんだ」 「あ、そうか司郎は明日が一歳の誕生日だもんね。洋ちゃん、まさか……」  塔子が司郎に顔を近づけて洋一を見る。  乱れたロングヘアが悩ましい。 「うん。午前零時に司郎に聞いてみるぞ。お前はどこから来たんだってね」  そう言って、洋一はベッドボードのデジタル時計を見た。午後10時53分と表示されている。
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