プレイゲーム

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 今日は浮足立(うきあしだ)っている人が多い。今日は久しぶりに夜の連合鬼が開催されるからだ。俺、村雨隼太(むらさめはやた)もそのひとり。連合鬼にはまっている人間は生徒に限らず、教師もだから話題もなんとなくそちらに(かたよ)る。  「村雨、授業には集中しろよ」  「先生、問題間違ってるよ」  「え、あ……すまん」  「先生も集中してくださーい」  「俺も修行が足りんな」  笑い合う声が響く。同じ趣味を持っている人間が多いというだけで学校の空気は良い。教師とも話しやすいし、友達も作りやすいし、成績が落ちると禁止令をほのめかされるので割と真剣に対策に取り組む。そのお陰か両親の反対もなく隼太(はやた)も全力で楽しんでいる。  小学生5年生からはまって、6年。高校生になれば体力も使えるツールも増えるから、ますますのめり込む。いざ友人と敵となったとしても手は抜かない。お互い全力でやるのが礼儀。  「隼太―、味方になったらよろしくな」  「おう。敵だったら全力で狩るけどな」  「こっちのセリフだ」  今回のゲームエリアは夜の公園。3.5㎞の帯状に伸びる普段は散歩コースとして知られている。桜並木があり、白樺並木があり、草が背を高くしている箇所もあり、東屋も何カ所かある。これが昼間なら鬼も鬼狩りもひたすら追いかけて逃げる持久戦になるが、夜は身を潜めやすい。捕縛アイテムとマーカーが発光タイプになり、上手く使えば視界確保に応用できる。開始時間は19:00 制限時間は30分。先にエリアに散る鬼達との時間差が気になるところだ。  「誰か無臭の虫よけ開発してくれないかな……」  「それな」  毎年この時期の連合鬼でぼやかれることだ。虫刺されは嫌だから虫よけ必須。だが、香りは居場所を知られるきっかけになる。全員が使えばわからなくなるかと思いきや、一定数嗅覚が強い人がいる。形勢逆転には充分な要因なのだ。夏の夜の連合鬼は虫よけが欠かせない。悩ましい。とりあえず、風向きのチェックもしておこう。  動きやすい靴、暗い色の服、運営が個人識別するためのカード、隼太の捕縛アイテムはトリガーを引けばロープが発射されて相手に巻き付くロープガン。最大10発まで撃てる。全員に支給されるマーカーはグローブに内蔵されていて捕まった相手が鬼なら南京錠の形、鬼狩りなら刀の形に浮かび上がる仕掛けになっている。  全ての装備を確認しながらエリア拠点に続々と集まるメンバーに目を走らせる。何度もプレイすれば顔見知りは多い。プレイスタイルも人となりもわかってくる。今日は中規模連合鬼だ。20vs20 総勢40人のプレイヤーが集う。高校の関係者は思ったより少ない。15名ほどだろうか。果たして誰と組むことになるのだろう。  「開始30分前になりました。チームを発表します」  隼太は狩人だった。配られた薄紫の鉢巻きを締め仲間の集まる方へ足を向ける。もちろん鬼側のメンバーの名前を聞きながら。友人は鬼か……気配を消すのが得意な相手なので手ごわい。楽しみだ。  「夜凪(よなぎ)」  会場全体がざわめいた。今まで無敗の戦績を持つ謎のプレイヤー、夜凪。情報が一切なく、姿を見た者もいない。誰とも組まず、単独で動くことで知られる。誰も知らない。登録名 夜凪の戦績データだけが無敗のまま更新していく。  「やばいぞ、夜凪が鬼にいる」  「誰なんだ」  「ありがたいが……」  正体は気になるが戦略を立てる方が優先と各々が気持ちを切り替えて話し合う。初めて会う相手にはプレイスタイルを聞きながら、旧知の相手とは意見交換と確認を。  「隼太さん」  「ミオ先生!?」  「ここでは(みぎり)よ。3年ちょっとぶり?」  「はい。あの、先生もやってたんですね」  「うん。私は遠距離ロープガン使用。援護重視(えんごじゅうし)自衛(じえい)近距離プレイよ」  「へぇ、遠距離型、初めて会いました」  「あんまりいないのよ。よろしくね」  まさか小学校の時の担任に会うとは思わなかった。緊張するが、長距離ロープガンの戦い方が見られるのは楽しみだ。組み立てられていく戦略と自分の動きを確認しているあっという間に開始時間になった。
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