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「昨日大学の落語研究会メンバーで大喜利をやったんだ」
「ほう」
「そりゃもう真剣勝負でさ。何せ面白い答えなら座布団が一枚貰えるが、悪いと取られてしまう」
「そこまで熱が入るもんかね」
「とった枚数分、部長が肉を奢ってくれるんだ。今日は焼肉屋で飲み会だから」
「そっちのザブトン」
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老人ホームで七夕の短冊が配られた。
「今更願うことも特にないねえ」
「習い事の上達も、もうねえ」
「あの、和歌を吊るしてもいいそうですよ」
スタッフが言うと「その手があったか」と入居者は頷いた。
翌日、以前から窃盗の噂があった和歌子さんへの被害報告が短冊となり、笹を埋めていた。
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森で迷子の亜人を拾った。
俺は母が『人』で父が『亜人』だから、村で肩身が狭い。
それでつい、自分にも守れる相手ができたと思って嬉しかったんだ。
そいつは言葉も変だし力も弱いし特殊能力も皆無。しかし料理は旨い。
俺の部屋で父の日記を見つけたそいつが言った。
「これ…"日本語"だ!」
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「今、風邪で鼻が詰まってて利かねえんだわ」
「風邪ひいて耳が詰まってね、聞こえないの」
「風邪で目が詰まっててさ、開かないんだ」
異世界の風邪は、私の知る風邪とちょっと違う。
「君は大丈夫?」
好きな人に顔を覗き込まれる。胸が詰まって、言葉が出ない。
「風邪ひいた?」
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前の魔法大戦から世界は夜のままだ。
たまに雨が降り水溜りができると人が集まって覗き込む。
水溜りの中に見えるのは、本来の——昼が来る世界。
新たに生まれた子は、水溜りから朝焼けや夕暮れ、青空を学ぶ。
しかしたまに星空にしか興味のない子もいる。
夜空の結界を読み解く子がいつか出る。
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夜の町を猫が歩く。側溝の蓋の下を鼠が走る。梢に小鳥が集まって眠っている。にんげんが光を灯した何かで走り去ってゆく。
塀の上に飛び乗ると、闇に紛れて漂うかたまりをぱくりと呑む。
これをあまり食べすぎると尻尾がふたつに割れるので、気をつけろと言われている。
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最近、三途の川に不思議な霧がかかるという。
渡し守は確かに対岸に着き、死者を下ろしてまた戻ったと言うのだが、その死者の消息はそこで途絶えてしまうのだ。
…もしかして、別の世界の対岸に着いてしまうのでは。
下界で異世界転生の話が活発な昨今、人の念が生み出した現象だとすれば。
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双子の兄は愛想が良く、周囲の関心を集めるのが上手かった。僕は大人しく本を読み、まるで兄の影のようだった。やがて中学校に上がると兄は学校に行けなくなった。
「双子ってだけで寄ってくる奴ら、面倒だから俺が負担を引き受けてるつもりだったんだ」
お前が静かに本を読めるように。
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どんな複雑なダンジョンでも諦めることなく踏破する男の噂を聞いた。
正確な地図を作り、それを冒険者に売って生活していると。
「奴いわく、どんなダンジョンも『シンジュクエキよりマシ』だそうだ」
…間違いない、同郷者だ!
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『私メリーさん。今あなたの最寄駅にいるの』
最近のメリーさんはLINEでメッセージを送ってくる。ブロックも無効な所が怪異らしい。
『私メリーさん。今樹海の入口に着いたわ』
この地で共に眠れないかな。友達のいない僕の愚痴に毎晩付き合ってくれて、今も僕を止めに来てくれている君と。
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