「少年」

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 追いかける、追いかけた、追いかけていた。追いかけていたのはこちらだった、はずなのに。  俺は単に金を回収できればそれでいいはずなのに。そうしないと怒られるから、だからあいつを追いかけていたのに。どうして逆になってしまったのだろう。 「かわいらしいもんだね、少年」  その声はからかうように聞こえて、けれどその底に知らないものを感じて。それで逃げだしてしまった。だから俺は追う方から追われる方になった。  回収できないことはまだいいとしてもあいつに背を見せて逃げ出したから、怒られるどころでは済まないから、だから俺は全てから逃げる必要がある。あいつからも、上からも。 「なあ、少年」  声が聞こえる。あいつの声だ。でもおれはちゃんと逃げているはず。逃げてきていい加減疲れて座り込んでしまったところで、だからもう動きたくないのにまだ逃げなけりゃいけないんだろうか。いやこの声はあいつのじゃない、そう思い込もうとする。 「オレから逃げられるわけがねえだろ、オレにはちゃんと追いかける手段があるんだよ」  幻聴だと思いたかったのに、横から手が伸びてきて俺の顎を掴む。そうして無理矢理そちらを向かせられる。どうやっても現実逃避はできないくらいにあいつがそこにいる。 「なあ、オレのとこから逃げたから向こうさんに追われてるんだろ」  見透かしたように言ってくる。誰のせいだと思ってと言い返したいのにそれでも逃げ出すことにしたのは俺だと俺自身がよく知っている。  あいつの言葉をはかれなくて逃げ出した。俺は臆病者だとその時に決まった。きっとどんな言葉であっても俺のようには逃げ出さないやつだっているんだ。 「オレの言うことさえ聞けば匿ってやるが、どうする」  本来オレは追いかけるのは趣味じゃねえんだけど今回はちょっと、などと声が続く。その半分の意味も頭に入ってこない。  ただじっくり見られている。喋りながらその目がこちらをぐりぐりと見ている。見透かされている。俺の今までも俺の中身も全部見透かされている。居心地が悪い。  ああけれど、あいつの懐に入ってしまえば変わるだろうか。あいつの言うことを受け入れてしまえば少なくとも逃げる必要はなくなって、もしかしたら居心地の悪さもなくせるのかもしれない。  あいつを見る。俺を見てあいつはにやりと笑った。 「契約成立かな」
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