第7章 動き始める世界

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 リルは軽く身を整え、庭で待たせてあったドラゴンの背中に乗り込む。ドラゴンが空に羽ばたく直前、家の方へ目をやると、起きてきたばかりの星恋七が食パンを咥えながら窓越しに手を振っているのが見えた。  リルはアルカナに向かっていた。今日はテネルに指定された例の日だ。  しばらく航行した後に、慣れた様子でドラゴンがミューリア郊外へ降り立つ。ここで待っているようドラゴンに命令して、城下町の方へリルは歩いていく。  城の改修作業が完了したようで、ツルリと磨き抜かれた美しいアリスブルーの外壁が小さく光を反射させていた。これが本来の色合いなのだろう。以前の黄金のタイルのような派手さは無いが、控えめながらも高貴さを漂わせている。  その一方で周囲の民家や店などの建物の外観には(いた)みが見られ、あまり手入れが行き届いていない様子だ。これまでの悪政による困窮が要因の1つとして挙げられるのかもしれない。  アルカナに通じる道を上る。しばらくするとアルカナの看板や建物、それにテネルの取り巻き達の姿が視界に現れる。それらにチラッと目をやり、リルは店内へ足を踏み入れた。 「イテテテェ……」  入るや否や、何やら妙な声が聞こえてくる。以前と同じテーブル席に着きながらテネルが呻き声を上げていた。  どうやら怪我の治療をしている最中のようで、医療の心得があるらしい白衣を着た悪魔がテネルの両隣に立って回復魔法を発動している。 「来たか、サタン。……お前たち、ここまででいい」  テネルが治療を中断させると、2人の悪魔はそそくさと店外へ出ていった。
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