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プロローグ
「おのれぇ! サタンめ!」
クレマチスの怒声は室内の窓ガラスの1枚1枚を大きく震わせた。
(ひぃ……)
『暴虐女王』として王の地一帯にその名を知らしめる女主人の怒りに、その眼前に控えるラストは身を縮みあがらせる。
「クレマチス様、どうか落ち着きを……! また城が――」彼女の側近の1人が、どうにかそれを宥めようとする。
1度怒り出したら手がつけられない。破壊衝動のままに、目につくモノ全てに危害を加える。自分の城や従者が相手であろうと容赦はない。
このディアランドでも限られたつわ者の手によってそれが行われるのだから、厄介で恐ろしい事この上ない。
「ふん。しかし、まさかサタンが封印から目覚めようとはな。あの悪魔の相手はお前ごときでは荷が重すぎたか」
「も、申し訳ありません! 私めも奮闘した次第ですが、力が及ばず……」
「どうであれ、このまま黙っておれば妾の名折れじゃ。お前に手を出すと言う事は、妾に牙を向くも同然。そうであろう」
「お、おっしゃる通りでございます」
「サタンは強い力を持つ。だがそれは魔界を一纏めにする強大な組織力を兼ね備えてのもの。己の犯した過ちゆえに、もう魔界からは見向きもされないであろう。かつて程の脅威はない。これを機に始末してくれよう」
クレマチスはそう言うと、葡萄酒の入ったワイングラスを傾けた。
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