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室内に顔を見せているのはテネルとリルの2人だけだ。前回の話し合いの様子から、もうリルが暴力に頼る事も無いだろうと踏んだのか、あの老婆の姿は見当たらない。以前よりもプライバシーが確保されている。
リルはテネルの向かい側の席へ無言で着席した。今日はミルクティーが淹れられてあるようだが、前と同様口をつける気にはなれなかった。
「それで、私が望む通りの物を用意してきたんでしょうね」
リルは早速本題に入ったが、テネルは初めに喫茶を促す。
「そう焦るな。まずは飲み物でもどうだ」
糖分は神経をリラックスさせる。それに茶の一杯程度であろうと何か行動を迫りそれに応えさせる事には、軽いマインドコントロールの作用がある。相手の心を落ち着かせ、自分に優位な状況の中で話を進めようと考えているのかもしれない。
「ここの店主が遠方より取り寄せたカリエザ産の高級茶葉に、ミューリア市内の牧場で今朝搾れたばかりの新鮮なミルクを使ったロイヤルミルクティーだ。砂糖も質の良い物を贅沢に入れている。それなりに手間をかけた価値のある物だ」
そうまで言われ、一口だけ口に含み喉を潤してみる。
茶葉の香気とミルクのまろやかな風味が口一杯に広がる。少し遅れて、味蕾を優しく撫でるような砂糖の甘みが絶妙に調和し、少々味付けが濃いものの、上品な味わいに思いのほか癒される気分だった。
テネルはそれを見届けて、ベストの内ポケットの中から、円筒状に丸められた紙の束を取り出した。
リルはティーカップをソーサーの上に置いて、それを受け取る。内容を確認しようと、紙を留めている中央部の紐をほどいて両手で広げてみた。生地のしっかりした地図が4、5枚ほど重ねられていた。
「これは……?」
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