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先日、藩内の農村を見廻りした途中、大雨に遭った。
ちょうど日が暮れる頃である。もう少し馬で行けば、粗末ながら宿がある。しかしこの雨風では前が見えぬ。
先日の暴風の時に土砂が流れたのだろう、道はひどく悪い。せめてもう少しましな天候であれば、進むことが叶うのだが今はそれもままならぬ。
向かい風だ。
真っ暗な空の下、すぐ前も見づらい。馬も怖気づいている。
一瞬、かっと周囲が黄色な明るさに照らされる。そのすぐ後で、ぱりぱり、と、耳に刺さるような音がした。
雷だ。
今日はここまでだろう。
さっき行き過ぎたところに、少し大きな農家が見えた。
あの家ならば、自分が一晩横になれるくらいの土間くらいありそうだ。馬も、繋がせてもらえるだろうか。
やむを得ず、吉之助は後戻りをした。
馬が踏む道には泥水が流れおち、ほとんど小川のようである。これは、また土砂が崩れるのに違いない。水路も決壊するだろうか。
自然、笠の下の眉は寄る。
雨が降っても風が吹いても、真っ先に倒れるのは農民だ。民が倒れたならば、次に朽ちるのは自分らである。
農村を巡検した時に見た風景が、吉之助の脳裏を次々によぎる。
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