遠子

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 枕元のスマホがアラームを轟かせる。  呼び鈴は鳴り止み、玄関扉の向こう側からは「え、出掛けてる? んなわけねーよな」と呟く彼の声が聞こえてくる。 「……夢かぁ」  私は大きな溜息を吐いて、ボサボサの頭をお気持ち程度に押さえつけながら玄関の鍵を開けた。  扉の向こうの彼は安堵の表情を浮かべ「よっ!」と明るく右手を挙げる。 「合鍵使いなよぉ」 「忘れた〜。つーか今まで寝てたん? もう二時だぞ」 「彼氏様がおデートにでも連れてってくれたら、朝からお目かしするんだけどね」  (えい)()は態度を一変させて「寝癖姿も世界一可愛いです、眠り姫」とご機嫌取りを始めた。まあ及第点かと、許してやることにする。  永太との出会いは大学の講義だった。ペアを組んだのがきっかけで、そこから頻繁に話すようになった。  恋に堕ちるのは一瞬で、もうすぐ付き合って三年目に突入する。  バイトを掛け持ちしつつミュージシャンになる夢を追いかける永太を、私は心から応援している。永太には光るものがある! なんて、素人の私が言っても説得力はないんだけどさ。  就活を目前に「これが最後のチャンスだ」とライブ活動に打ち込んでいるけど、正直私は卒業しても夢を諦めて欲しくない。  お金もないし、練習三昧で最近はゆっくり過ごす時間も取れていない。でも、物は考えようだ。  映画館デートは出来ずとも、家でポテチを頬張りながら観る再放送も味がある。人気テーマパークでペアルックデートは出来ずとも、量販店でゲットした半額のお揃いパジャマは最高の着心地だ。  彼には嫌味っぽいことを言ったりしたが、私は、この幸せが好き。  
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