遠子

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 顔を洗って部屋に戻ると、永太は買い物袋の中身を取り出していた。 「昼まだっしょ。コンビニに寄って差し上げたぜ?」 「神様、仏様、永太様!」 「はい、スペシャル」  (とお)()だから、とこ。トコトコって響きが何か可愛いから、気に入っている。ツナマヨおにぎりと鶏団子スープが私の鉄板メニューだ。  食事中にテレビを点けても「お行儀が悪い」と怒るような大人はいない。私は温められた鶏団子スープのビニールを剥がしながらチャンネルを回した。  バラエティ番組では、今月オープンした大型ショッピングモールについて放送していた。  ニューヨーク発のアイスクリーム屋が日本初出店……   実はだいぶ前からSNSでチェックしていた。香料や着色料を一切使わないこだわりの製法、私は王道のストロベリーとチョコレートが食べたい。  でもモールまでは電車で一時間以上かかるし、アイスにしてはお値段がかなり…… どうせ今行ったってこの行列だし、もっと人気が落ち着いてから…… 「行きたいの?」 「へ⁉︎ い、いやぁ〜アイス食べたくなってきたな〜って」 「だから、ここのアイスが食いたいんでしょ? 行こうよ、来月の八日お互い空いてるじゃん」 「……でも、忙しくないの?」  永太は「八日はへーき!」とグーサインをして見せた。  正直諦めて女友達を誘おうかと思っていた。でも、私と同じく甘い物好きの永太と一緒に行きたかったんだ。  久々の遠出デート、新しく出来たショッピングモールで、永太とアイスクリーム……‼︎  贅沢はしなくても平気と思っていたけれど、キラキラしたデートが嫌いなわけじゃない。  私がわくわくを隠せずにいると、永太がポンっと私の頭を撫でる。 「ごめんな、我慢させて」 「我慢なんてしてないし、今はライブが一番でしょ」 「それは俺の夢で、とこに我慢させる理由にはならないっしょ」 「本気で言ってる? 永太のデビューは私の夢でもあんの! そんでドームツアーの最終日にゴンドラに乗って私に指輪を渡すんだから!」 「はぁ? なんだぁそれ」  永太は私を小馬鹿にしたように、でもちょっと嬉しそうに笑った。  そしてモジモジしたかと思うと、リュックの中を漁り始めた。チラリと見えた書き込みだらけの楽譜が愛おしい。
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