遠子

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「とこ、これ」 「え?」 「この間じっと見てたろ?」  永太の手には、ピンクゴールドの指輪が一つ。  確かに以前通りかかった露店で可愛いと思ったものだ。 「これ、まぁまぁしたでしょ?」 「こういう時はありがとうでいーの!」 「……あ、ありがとぉ」  はい、とそのまま渡そうとするので「つけてくれないの?」と聞いてみた。永太は「お、おぉ」と言うとビニールの包装を外し、私の手を取ろうとする。 「ど、どっち?」 「永太はどっちがいい?」 「ええぇ?」  これ以上揶揄えば拗ねてしまうと長年の経験で分かっていたので、私はスッと右手を差し出した。  ピックを持てば素晴らしい音色を奏でる彼なのに、今はプルプルと指輪を落としそうな勢いだ。  何とか無事に指輪をはめると、彼は世界を救ったかのように大きく息を吐いた。  私は右手の薬指に輝く指輪をまじまじと見つめる。 「ふふん、ふっへへ」 「もっと素直に喜べよ」 「喜んでるよーん! ほんとに、ありがと」 「ドームとゴンドラは、もうちょい待って」 「えへへ〜、待つ」 「……とこ」  目があって、キスをした。  名残惜しいが、私から切り出した方が良さそうだ。
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