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遠子は彼の訃報を聞くとそのまま気絶し、目覚めた時には事故のことを忘れていた。
記憶を取り戻せば暴れ回って気絶する。目覚めたら全てを忘れている。その繰り返しだ。
何人もの名医の手にかかっても、彼女の時間は二年前のあの日から進めることができなかった。
遠子は当日の行動から大きく逸脱すると記憶を取り戻し、自傷行為に走ってしまう。友人を呼ぶのも、好きだった場所へ連れて行くのも、全てが逆効果だった。
遠子を安静にさせるには、あの日を正確に再現する他ないのだ。
困り果てた両親の目に飛び込んできたのが、道端に転がるホームレスの俺だった。幸か不幸か、俺は亡き古林 永太にそっくりだったのだ。
俺は永太として生きる道を選んだ。
瓜二つになるために整形手術を受け、提供された映像から話し方や仕草を真似た。ここは遠子の両親所有のスタジオで、彼女が住んでいたアパートと街並みが完全に再現されている。
新しい治療法が見つかるまで、とにかく娘を安静にさせること。
ハリボテの一日の誕生だ。
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