永太

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 遠子は交際を反対されたことを理由に、裕福な実家を飛び出した。  両親はやり場のない悲しみを永太にぶつけ、そんな永太に瓜二つの俺のことも気に入らないようだ。  路地裏で話を持ちかけられた時、俺は即答で受け入れた。  金が貰えるなら喜んで操り人形になってやる。恋人のフリをするだけで大金が手に入る、こんなに楽なものはない。  そんな軽い気持ちで初仕事を迎えた。  美しい––––  ボサボサの頭で玄関扉を開ける彼女を見て、ただそう思った。  裕福な実家を飛び出すほどの恋に堕ちて、相手の夢を心から応援できる彼女は誰よりも強く、誰よりも脆く、美しかった。  出会ったその日、俺は何とか彼女を立ち直らせようとした。しかし、彼氏の顔をした男から「本当の俺はもう死んだんだ」と言われたところで、彼女は混乱するだけだった。  俺はキツいお叱りを受け、今度娘が暴れたらクビだと言われた。  個人的にギターを習って、永太にないはずのタコを作った時も厳重注意を受けた。  求められているのは、用意された台本通りに飯を食い、指輪を渡し、キスをする。ただそれだけ。そこに俺の意思など必要ない。  俺は、俺であって俺じゃない。  彼女が愛しているのは……  この気持ちに気がつくのに時間はかからなかった。これは役への没入感に必要なものだと、毎日言い聞かせた。  そうしなければ、とても耐えられなかったから。  
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