七礼目 文化祭

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 大柄で、その後ろ姿は、相撲取りと見間違えてもおかしくないほどだ。年齢も、天道さんよりも十歳以上年上で、バツイチ子持ちらしい。  最後にその女性を目にした時は、手元に大きなダイヤモンドが付いた指輪をしていて、首元には、大粒のパールで出来たネックレス。そして、蛍光ピンクのド派手なワンピースを身に着けていたのを、あまりの衝撃と共に記憶している。正しく【豚に真珠】を体現したようなその女性が、清廉で落ち着いた純和風の茶器や小物を好む天道さんの好みのタイプだとは、到底信じることが出来なかった。  自分によからぬ噂が広まらぬよう、理事長の娘と結婚し、他にも噂され始めていた数々の噂を権力で握り潰したのだと、結婚後の天道さんを見て、確信した。  天道さんの点前は、次第に、丁寧さやきめ細やかさを失い、涼が憧れた不思議な魅力も、それと併せて失われていった。  天道さんが結婚してから、天道さんの涼に対する態度は、それまで以上に執着的なものへと、変わっていった。意見が食い違うと、天道さんが、涼に手を上げることも、ゼロではなかった。美しく、清廉で、何物にも汚されることのない茶道。天道さんは、繰り返し、涼に向かって、自分の理想とする茶道について、主張し続けた。  学年が変わるタイミングで、親の進めもあり、涼は、転校することを決めた。自分にとっての茶道と、師である天道さんにとっての茶道は、最早、同じものではない。  生まれ育った土地を捨て、自分が大好きな茶道を、愛し続けることが出来るように。たとえ、自分がもう二度と、誰かと共に、御茶を点てることが出来なくても、大切な友と、心を交わした茶道を愛し続けられるように……。  涼は、そう願いを込めて、十六年生きたふるさとを去った。
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