二礼目 点てる意味

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 季節は巡り、春になり、涼も遠弥も、高校生になった。  桜の色づきが、淡い色から徐々に濃く深まってきた頃、涼は、青高の露地で、遠弥と再会を果たした。  というのも、季節が冬になった頃から、遠弥は、ほとんど学校に来なくなっていたのだ。  理由を聞きたくても、遠弥のクラスを訪れても、その姿はなかった。家に直接行こうと思ったが、涼は、この時、初めて自分が遠弥の家の場所を知らなかったことに気が付いた。いつも、遠弥の方から迎えに来てくれていた。だから、知らなくても、これまでなんの問題も起こらなかったのだと。  受験の内申に影響を及ぼす出席日数が、中学三年の二学期一杯の成績までであることを涼は知っていた。受験勉強をするために、休む。クラスには一定数そういった人間がいたので、涼はこの時、遠弥も皆と同様の理由だと思った。一緒に()て合うことの出来ない寂しさはあったが、卒業式近くになれば、また登校してくるだろうと、遠弥を待った。  待って、待って、ただひたすらに遠弥の点前が見られる日を待った。  それでも、遠弥が二度と、御茶室に現れることはなかった。ふたりは、そのまま中学を卒業し、やがて、季節は、桜が咲き誇る季節となってしまった。 「なんで!なんで、連絡のひとつもくれなかったんだ!」  たった四ヶ月。たった四ヶ月、連絡が取れなかった。ただそれだけのことだ。それでも涼は、気が付くと遠弥の胸倉を掴んでいた。敷石が擦れる音がした。目の前には、苦しそうな顔をした遠弥がいた。  遠弥のふわりとした優しい笑顔が、苦しさの中に一瞬、透けて見えたのに、涼は、遠弥の話に耳を傾けることが出来なかった。  なにも、見えていなかった。  なにも、聞こえていなかった。  ただただ夢中で、精一杯だった。  本当に、それだけだった。
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