三礼目 仲間

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 今日は、連休前にして、涼にとって、真行高校茶道部での、事実上の活動初日でもある。昨日は、結局、茶室の使い方について和仁から説明を受けたり、手入れ当番の日を決めたりして、本格的に抹茶を点てる時間が足りなかった。涼は(はや)る気持ちに蓋をして、走ることのないように、でも、徒歩としては、間違いなく、これまでで最速で部室へと向かった。 「失礼します。」  音はしていないけれど、電気がついているから、きっと、誰かが中にいるのだろう。そっと扉に手をかけ開いた。 「失礼します。」  もう一度口にした後、今度は深く、真の御辞儀をする。頭を上げると、涼の礼を和仁が見ていた。 「どうした?」 「いや、俺のとは、やっぱり違うなぁと思ってさ。」  そう言って、電気釜をセットしている。涼の視線の先が、和仁の手元にあるのに気が付いたようで、 「ごめんね。流石に炭は起こせないんだ。」 「いや、わかってる。前が特殊だったってことは。」  和仁とは、昨日の放課後、一緒に下校した。入部届を提出した昨日の放課後、その足でそのまま部室を訪れた涼は、ドヤ顔で説明しようとする宗也が、あまりにうざかったので、その隣で、花の手入れをしていた和仁に説明係を頼んだ。    その流れで、涼と和仁は、茶道の話をしながら、というか主に、涼の前の学校の茶道部について話をしながら、下校した。私立や名産地であったことから、極めて充実していた施設のことやこれまで誰にも話せず、心の中にとどまっていた遠弥のことを、涼は時間が来るまで、とにかく、ひたすら話した。  和仁は、着物や道具などの荷物があるため、自転車通学だったが、自転車を両手で押して、涼の歩幅に合わせて歩みを進めた。会話にも、適度に相槌を入れつつ、どの話も真剣に聞いてくれた。流石、普段から宗也のマシンガントークに慣れているだけのことはあると、涼は少し感心した。  一通り準備し終えた和仁に言われて、涼が先にお茶を点てることになった。  茶器、茶筅(ちゃせん)茶匙(ちゃさじ)。この三つだけは各自で用意するきまりだと昨日聞いたので、涼はこの三つを素早く準備し、御客である和仁を待たせないようにと心掛けた。  部室は、右奥に小さな和室の小屋が在り、左側には簡易的ではあるが、露地を再現した敷石が敷かれたエリアがある。部室の一番手前、つまりは扉を開けてすぐ左脇には、手元を清める(つくばい)が設置されていた。学校の一室。扉を開ければ目の前が廊下だということを忘れそうなくらいには、充分によく出来た稽古場だ。     「ふぅ……。」  ひと息ついて、精神を統一する。今日は、これから一緒に、稽古に励む仲間への一服だ。   そう思うと、不思議と表情も落ち着いたものへ変わっていくような気がした。
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