三礼目 仲間

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 その翌日から、四月から五月へと月を跨ぐ連休に入り、涼はこの機会を逃すまいと、まだまだ残っていた引っ越し用ダンボールの山を一気に片付けた。そして、勢いそのままに、机の上を掃除していると、転校初日に太刀内(たちうち)先生から受け取ったプリントが出てきた。重なっていたプリントは、一枚以外は業務連絡だったので、内容を確認してから一秒と経たないうちに、クシャクシャに丸めて、ゴミ箱へと放り込んだ。  手元に残った一枚は、クラス名簿だ。クラスの人間の顔と名前もだいぶ一致するようになってはきたので、必要ないかとも思ったが、正直、女子の名前に関しては、まだ自信がなかったので、涼は念の為と、鞄に入れておいた。  連休明けの学校は、どこか皆、そわそわしていて、まだ休みモードが抜けきらないようだ。涼も、連休の過ごし方について、和仁をはじめとして、数人に尋ねられたが、まだ、以前のように、茶道具を見て回る余裕がないので、特に目立った話題もなく、無難な会話で終わってしまっていた。  それにしたって気のせいだろうか。やたらと今日は、女子に話しかけられているような気がするのは。話しかけてもらえるのは嬉しいが、まだ記憶が曖昧な名前を呼び間違えでもしたら、流石に失礼すぎるので、例の名簿に目を通す。 (あの時、鞄に入れて正解だったな。) 「ちょっと、待って!」  かけられた和仁の声に、手を止める。 「ん?急にどうした?」 「それっ、その名簿、見せてもらってもいい?」  やたらと前のめりになっている和仁は、名簿を目にした途端、瞳を大きく見開いた。 「なんだよ。言えよ。」  なんの変哲もない、ただのクラス名簿だ。特に驚く要素は見当たらない。 「(たつ)の名前がある。」  唇を噛みしめ、和仁の顔はその瞬間、真剣なものへと変わった。 (辰……?嗚呼……。)  確かに、名簿には【綾波(あやなみ) (たつ)】と、一番下に書かれている。男子の名前と顔は、かなり一致してきたと涼は感じていただけに、まだ認識していないクラスメイトが居たのかと、少しショックを受けた。 「なぁ、こいつって、割と休んでる?」  自分の記憶違いがないか確認する。 「……うん。割と、っていうか、まだ一度も学校に来てないよ。」  教えてくれた和仁の声が震えている。今にも泣き出しそうなその表情に、何か訳ありなことは、訊くまでもなかった。  気にはなった。けれど、どう切り出せば良いものか、解らない。それに、訊いても良いのだろうか。 (いや、あれだけグイグイ踏み込んで来られたんだ。俺からも、少しくらい歩み寄ったって……。)  とは言え、流石に、声を震わせている和仁相手に正面突破するのは気が引けるので、涼は、放課後、タイミングを見て、他のふたりに訊いてみることにした。
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