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その頃、二年三組、つまり、宗也や秋のクラスの教室では、和仁と宗也が話し込んでいた。
「ソレって、辰がもう、進学クラスじゃないってことだろ?!なら、なんで学校も、部活も、来てないんだよ!」
「俺だって解らないよ。でも、このままだと、辰は出席日数が足りなくなって、きっと、退学させられる。」
「そんなの、もっと、納得出来ねぇよ!!」
宗也が、思いきり机に手を打ち付けた音が、こだまする。固く握りすぎた掌は、机の上で、赤くなっている。
「宗也。そろそろ落ち着くんだ。涼も秋も、待ってる。それに、話なら後で「お前はなんともないのかよ!だって、アイツは、オレ達に理由も話さずに、部活に来なくなったんだ。それなのに、二年になって、実は、お前や涼と同じクラスになってました~!なんて、納得出来ねぇよ!!」わかってるよ!!でも、少なくとも、考えなしに行動してばっかりの宗也の何百倍も、俺は、皆に言えなかった辰の気持ちがわかるよ!」
言い終えた和仁の表情は、酷く歪んでいた。どうにも出来なかったかつての自分への後悔が、激しく和仁を襲う。
そう。和仁は、辰が部活にも、学校にも来られなくなった本当の理由を知っている。
けれど、打ち明けることが出来ない。それは、和仁が自己判断して良いものでは決してない。辰から唯一、相談を受けていたはずの自分ですら、進学クラスから標準クラスへ替わる話は、一度だって耳にしたことはなかった。不甲斐ない自分に、思わず全てを吐き出してしまいそうになる。
「おい、いつまで待たせる気だ。」
「「……。」」
気が付くと、教室前方の扉の前に寄りかかり、やや黒みがかった赤い着物姿で、腕組みしている涼の姿が在った。
その隣で秋は、大きな体を少し小さくしている。その反応から、和仁達の話を聞いていたのは明白だ。
「誰かのために、なにかするのは柄じゃねーけど、愚痴や文句なら、後で俺が、何時間でも聴いてやる。だから今は、言いたいことは、茶道で語れ。お前ら、茶道部員だろうが。」
それだけ言い終えると、涼は背を向けて歩き出した。目の前を歩く着物の袖が、ひらひらと揺れている。もしも、あの場にふたりのままだったなら、間違いなく、もっと言い過ぎてしまっただろう。
それはどうやら、宗也も同じことを感じていたらしく、部室に向かう間、和仁は、何度か宗也と目が合った。普段は寡黙な秋も、この時は、いつもより多く話してくれていた気がする。
(……気を遣わせちゃったな。)
和仁は、前を行くふたつの背中が頼もしくて、やはり、自分が情けなく思えた。
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