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「……うん。うちの学校の進学クラスは、もともと近隣に進学校の私立が増えたことに、対抗するために作られたんだ。だから、生徒も教師も、気合が凄い。学期末になると、毎回、進学クラス全員分の順位と得点が廊下に張り出されたり、強化合宿って言って、長期の休みがあると、学校に泊まって勉強したりするんだ。」
「標準クラスと、随分違うな。」
涼は、自分の目の前で、口をモゴモゴさせながら、焼きそばパンを頬張る宗也を一瞥した。
「でも、そのスパルタのせいで、進学クラスは、毎年何人もの留年者を出してる。まぁ、おかげで、進学クラスは標準クラスより偏差値が十五以上も上だから、成功しているとも言えるけど。」
「それにしたって、他のクラスとの差が開きすぎるってのは、なんかトラブルとか多そうだな。」
「涼の読み通りだよ。以前は、進学クラスも標準クラスも、同じ校舎で勉強していたんだけど、トラブルが絶えなくて、今は校舎が分けられてる。それでも、まだ、進学クラスでは、順位争いのせいで、いじめが横行しているんだ。」
和仁の説明に、三人は少しの間口をつぐんだ。
「……もう、解った。」
「……。」
「辰ちゃん……。」
険しい皆の表情を見て、宗也が、立ち上がった。たとえ、どんなに敵の数が多いと解っていても、曲がったことは、許せない性格の彼が。
「助けに行こう。」
普段より一オクターブ低い宗也の珍しく静かな声が響く。静かな怒りが伝わってくる。
知らなかった。何も出来なかった。気付かなかった。後悔を言い訳にする方法なら、もう、いくらでも知っている。
もし言い出したのが、宗也でなかったら、ただの綺麗ごとで、終わっていたかもしれない。
『助けに行こう。』そのたった一言で、全員の気持ちが引き締まった。
涼がトイレに立った時、その背中が教室のドアから完全に見えなくなったのを見計らい、和仁は宗也へと声をかけた。
「昨日の放課後は、……ごめん。」
「オッ、……オウ。」
(喧嘩したふたりを見たのは、久しぶりだなぁ……。涼ちゃんの前で仲直りをすればいいのに。やっぱり、かっちゃん、恥ずかしいんだろうなぁ。)
付き合いが長い者同士の仲直りは、なかなかに難しいものだと、秋は互いに目が泳いでいる宗也と和仁の顔を見比べて思った。
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